写真●オープンウェブ・テクノロジーの白石俊平代表取締役
写真●オープンウェブ・テクノロジーの白石俊平代表取締役
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 「HTML5は、一度書けば、どのブラウザでも動く理想的なWebを目指している。数年以内に達成されるのでは」---。東京ビッグサイトで開催されたITpro EXPO 2010展示会で、オープンウェブ・テクノロジーの白石俊平代表取締役(写真)が「HTML5で変わるWebの世界」と題して講演を行った。

 白石代表取締役はまず、HTML5とは何かということを説明。HTMLの最新バージョンで、Webページを記述するための言語であり、「本当のところは単なる仕様書である」(白石氏)。

 HTML5は標準化団体「W3C(World Wide Web Consortium)」によって標準化作業中で、仕様書がバージョンアップされており、2011年5月22日に確定する予定。「今年から来年にかけてHTML5はかなり普及するはずだ」(白石氏)。一般的にHTML5と呼ばれる技術は、狭義のHTML5とJava Script APIを合わせたもの。さらにCSS3やSVG、MathML、WebGLなどといったWeb技術も含めてざっくりとHTML5と呼ぶこともあるという。「近年、進化の激しいWeb技術の進展やバージョンアップのすべてをHTML5と言っていると思って差し支えない」(白石氏)。

 白石氏は「HTML5の仕様書は膨大であり、そのすべてをこの講演で説明することはできない」と述べたうえで、3つに絞りこんで説明した。セマンティックスとアクセシビティ、互換性の追求、リッチ・インターネット・アプリケーションの3つである。

 セマンティクスとアクセシビティの意味するところは「More Readable for Everyone(すべての人にとってより読みやすいHTMLを)」といったことになる。ここでいうすべての人とは、健常者や障害者、プログラムも含めたものである。

 健康なWebエンジニアなどが読みやすいHTMLのソースコードにするだけではなく、例えば視覚障害者が使用する「スクリーンリーダー」と呼ばれるページの読み上げツールが、HTMLの内容を正確に解釈できるようにしたり、検索エンジン内のプログラムがHTMLを解析しやすくしたりすることを目指している。「セマンティクスとアクセシビティはとても重視されており、決まりかけた仕様でも、それらに不足がある場合はすべて差し戻しになるほどだ」(白石氏)

 白石氏は、セマンティックな要素を利用する具体例を挙げて説明。HTML4のソースコードでは「div」という単語が多用され、どこがメニューであるかもわかりにくい。だが、HTML5を使って書きなおすと、「header」やメニューを意味する「nav」、本文を意味する「article」、「time」といった単語が使われ、誰にとっても読みやすくなっている。「もちろん、プログラムにとってもHTML5の方が処理しやすい」(白石氏)。

 現在のHTMLにおける一番の問題はブラウザ間の互換性で、Web製作者や開発者はすべてのブラウザ上で同じように動作させるために膨大な時間を費やしている。HTML5は互換性を追求するように、仕様の問題に正面から取り組んでいる。“Pave the Cowpaths(牛の通った跡を舗装して道を作れ)”を合言葉に作業を進め、HTML5ではなるべく新しい仕様を作らないようにしている。これまでは「実装はあるが仕様はない」という状態だったが、「Pave the Cowpaths」が意味するように、既存の実装をよく見て文書化することによって新しい仕様を作っていく。

 この作業によりブラウザベンダーは、すでに開発している部分に何も手をつけなくても新しい仕様に準拠していることになる。開発者にとっても、これまで動いていたものを新しい仕様に書き換えるようなことをしなくて済む。「仕様書作りは大変な作業だったはず。その仕様書はすでにある。あとはブラウザベンダーがその仕様にしたがって、実装を整えてくれるのを待つだけ。それがなされれば、一度書けばどのブラウザでも動くというような理想的なWebが近づいてくる。数年以内に達成されるのではないか」(白石氏)。

 また、GmailやGoogleマップなど、アプリケーションと言っても差し支えないようなダイナミックなコンテンツがHTMLの上で動くようになってきており、HTML5ではそういったアプリケーションを作るためのプラットフォームを目指している。つまり、今までFlashやMicrosoft Silverlightといったプラグインで実現していた表示を「オープンな標準で実現できるようにしようという動きが進んでいる。これまでHTMLではできなかったことをAPIを追加してできるようにしていっている」(白石氏)。

 白石氏はHTML5とAPIが実現することの例として、2D&3Dグラフィック、動画・音声の再生・生成、オフライン、オフラインWebアプリケーション、クライアントサイドストレージ、バックグラウンド処理などを挙げた。「今後も増え続けるので、Webアプリはどんどんリッチになっていく」と話し、「開発者にとってはこれほどわくわくすることはない。アイデアの幅がどんどん広がっていく。今後数年で見たこともないようなアプリがたくさん出てくる」と語った。

 白石氏は最後にHTML5の可能性を表す2つのアプリケーションのデモンストレーションを行い、大勢の観衆から拍手を浴びた。