[画像のクリックで拡大表示]

 スマートフォンとクラウドを掛け合わせることで、企業のモバイル活用は新時代に入る---。2010年10月20日、ITpro EXPO 2010展示会の「ICTパネル討論会」では、携帯電話事業者4社が「モバイルクラウド」をテーマにパネルディスカッションを実施した(写真)。

 登壇したのは、イー・モバイルの坂田大 常務執行役員経営戦略本部長、NTTドコモの中西雅之 法人事業部ソリューションビジネス部長、KDDIの有泉健 ソリューション推進本部副本部長、ソフトバンクモバイルの白石美成 プロダクト・マーケティング本部法人プロダクトサービス統括部担当部長の4人。モデレータは日経コミュニケーションの河井保博編集長が務めた。

スマートフォン、クラウドの登場でモバイルは変わったのか

 「スマートフォンやタブレット端末、クラウドの登場で、企業でのモバイルの使い方は変わってきているのか」。モデレータの河井編集長はこの質問からパネル討論会を切り出した。

 ソフトバンクモバイルの白石担当部長は「ソフトバンクの営業スタッフ1万3000人がiPhoneを使っている。当初はメール、スケジュール、連絡先といった用途だけだったが、その後、勤怠やりん議、営業支援といったアプリケーションも利用できるようにしてきた。iPadも営業スタッフで実験中だ。データをクラウドに置き、iPhoneやiPadをシンクライアント端末として利用することでコストを下げつつシステムの活用度を上げられる」と自社を例に挙げて説明した。

 KDDIの有泉副本部長は「タブレット端末を仮想デスクトップの端末として使いたい、という相談を頂くことが多い」とユーザーの動向を紹介。「仮想デスクトップの利用はスマートフォンでは小さすぎるが、タブレット端末のサイズならばストレスを感じないで利用できる」との見解を示した。加えて、「データをKDDIのクラウドに預けて、管理負荷を下げることも併せて提案したい」とした。

 NTTドコモの中西部長は「情報漏えい対策でノートパソコンを持ち歩きにくくなった企業も多い。スマートフォンやタブレット端末を使って、オフィスのパソコンと同様に仕事ができるようにしたいという声は多い」とした。個人情報保護法や不正競争防止法などの時流が、企業のスマートフォンやタブレット端末、クラウド活用を後押しするという意見だ。

 イー・モバイルの坂田常務は「企業ユーザーからモバイルルーター『Pocket WiFi』の指名買いが増えてきた。今は中小企業の共有スペースで(無線LANアクセスポイントの代わりに)利用するケースが多いが、今後は様々な無線LAN搭載端末をクラウドに接続したいというニーズも増えていくだろう」と答えた。

 スマートフォンやタブレット端末、クラウドが今後さらに広がるという点では4社とも一致したが、企業での導入に当たっては課題も残されているという。

 スマートフォンのセキュリティがその一つだ。ソフトバンクモバイルの白石担当部長は「AndroidやWindows Phoneは仕様がオープンなので、OSネイティブでセキュリティを高める工夫ができる。半面、そうした機能を悪用される可能性もある」と指摘。「今後は完全にオープンというモデルだけでなく、特定のパートナー企業に責任と権限を預けて開発する端末も出てくるのではないか」と予想した。

 NTTドコモの中西部長は「企業ユーザーはカメラ非搭載を求める場合も多い。しかし、スマートフォンは個人消費者もターゲットにした“全部入り”の商品。カメラ非搭載端末がすぐに出てくるとは考えづらい」と言い、既存の法人向け携帯電話端末の需要も根強く残るとの見解を示した。

クラウド時代に向けネット高速化、高品質化に注力

 スマートフォンやタブレット端末を使ってクラウドに接続する、という使い方ではネットワークの速度や品質も重要なポイントになる。河井編集長はモバイルブロードバンドの実現に向けた今後の計画を4社に尋ねた。

 グループのUQコミュニケーションズでモバイルWiMAXを手掛けるKDDIの有泉副本部長は「画面転送型の仮想デスクトップのように、通信速度を必要とする用途でモバイルWiMAXが評価されるようになってきた」と言い、モバイルブロードバンドの需要は企業ユーザーからも高まっていることを説明した。

 2010年12月に次世代携帯電話規格「LTE」のサービスを開始するNTTドコモの中西部長は「よく使われるエリアを中心にLTEを展開していく。スピードも重要だがエリアや品質も大事。運用維持管理にも力を入れる」とした。

 イー・モバイルは今秋にも最大40Mビット/秒の3Gサービスを開始予定。坂田常務は「近日中に発表できる。まずは東名阪のトラフィックの多いところから始めるが、かなりエリアを広げようと思っている。2012年ころにはLTEの導入や3Gの最大80Mビット/秒への高速化なども検討している」とコメントした。

 ソフトバンクモバイルの白石担当部長は「複数の技術の併用が今の我々の方針。固定通信、モバイル通信、放送波を利用したデータ伝送などをハイブリッドに使っていきたい。ウィルコムのXGP技術も仲間になったので、最適な組み合わせを考えていく」とした。