写真1●講演するNTTデータ NFCビジネス推進室の大熊喜之課長
写真1●講演するNTTデータ NFCビジネス推進室の大熊喜之課長
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写真2●ゆいレールでの実証実験の様子を示したプレゼン画面
写真2●ゆいレールでの実証実験の様子を示したプレゼン画面
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 NTTデータは、ITpro EXPO 2010の最終日となる2010年10月20日、「沖縄『ゆいレール』事例にみる、NFCで変わるクラウド型ICカードの世界」と題して講演した。同社ビジネスソリューション事業本部プラットフォーム&サービスビジネスユニットNFCビジネス推進室の大熊喜之課長が、沖縄県のゆいレール(沖縄都市モノレール)で実施したICカード乗車券導入の実証実験について説明。中小の鉄道事業者における新しい発想でのICカードシステム導入手法を提案した。

 大都市圏では、Edy(エディ)やSuica(スイカ)、nanaco(ナナコ)といった電子マネーやICカード乗車券が普及している。たが、地方都市ではまだ普及に至っていない。大都市でも、中小・零細企業にとっては敷居が高い。大熊課長はまず、「現行のICカードシステムは、日本全体でみれば大都市や大手チェーン店でしか普及していない。EdyやSuicaがサービス開始した2001年から10年近くがたち、導入済みの事業者や店舗でも、費用対効果を精査し、更改するかどうかを判断する時期に差しかかっている」と問題提起した。

集中処理なら数千円の汎用IC読み取り機が使える

 最大のコスト要因は端末、すなわちICカードの読み取り・書き込み機(リーダー/ライター)にあるという。一般的な加盟店・交通事業者が導入するリーダー/ライターの価格は、10万円以上が中心だ。大熊課長は、「日本ではファットクライアント型のICカード端末が主流のため、端末コストが高くつく。料金加減算や偽造対策などを端末ではなくサーバー側で集中処理する方式にすれば、安価な汎用のICカードリーダー/ライターで済むのではないか」と提案する。『パソリ(PaSoRi)』や『ぴタッチ』といった汎用機は、家電量販店で2000円程度で売られている。

 ゆいレールでは、この集中処理方式によるICカード乗車券の実証実験を実施した。2010年3月、那覇市内にある、おもろまち駅、県庁前駅、那覇空港駅の3駅では、NECトーキン製リーダー/ライター「ICM-3136」を改札窓口に張り付けるだけという簡素な形で設置。料金計算などの処理は光ファイバー回線の向こう側に設置した沖縄県内のデータセンター実施するようにした。IC乗車券としては、パナソニック製のType-B準拠の汎用ICカード「MN101CY727BE-W」を約100人に配布した。

 改札時の応答速度は平均0.319秒。「1秒以内が目標だったため、予想外に良好な結果だった。0.1~0.2秒で応答するSuicaなどに比べれば遅いが、利用者には問題なく受け入れられたようだ」(大熊課長)という。応答速度のうちサーバー側の処理時間は0.033秒で、実用時に処理量が増大しても問題ない水準としている。

 もっとも、集中処理方式は実証実験段階にあり、実用化に向けてはいくつかの課題がある。中でもカギを握るのが、固定回線を引き込めないケースや通信回線が不安定な場合の対策だ。最近も、同方式を東南アジアのある国に売り込んだ際に、停電や回線切れなどの問題がクローズアップされたという。

 この点に対し大熊課長は、「沖縄の実験でも『モノレールだけでなくバスでも使いたい』という意見が出た。だが、常時移動するバスでは通信が不安定になりがちなため、集中処理方式の実現には課題がある。信頼性を無限に高めるのでは高コストになってしまうだけに、どこまで機能低下を許容するかの見極めがポイントになる」と説明した。

 そのうえで、課題解決のため研究開発を継続しつつ、日本の中小鉄道事業者や海外などへの営業活動を進める意向を示した。