写真●2日目のICTパネル討論会で議論するNEC、日本IBM、日立製作所、富士通の幹部4人
写真●2日目のICTパネル討論会で議論するNEC、日本IBM、日立製作所、富士通の幹部4人
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 企業のクラウド活用は「導入すべきか否か」というフェーズを過ぎ、「どの業務にどう活用するか」というフェーズに入った---。「ITpro EXPO 2010」展示会2日目にあたる2010年10月19日のICTパネル討論会では、大手コンピュータメーカー4社の幹部が一堂に集結。ミッションクリティカルな基幹系システムを含む企業情報システムへのクラウド活用をテーマに、パネルディスカッションを実施した(写真)。

 登壇したのは、NECの龍野康次郎 執行役員[ITサービスBU]製造・装置業ソリューション事業本部担当、日本IBMの吉崎敏文 執行役員クラウドコンピューティング事業担当、日立製作所の佐久間嘉一郎 執行役常務情報・通信システム社プラットフォーム部門CEO、富士通の阿部孝明 常務理事クラウドコンピューティンググループ副グループ長サービスビジネス本部本部長の4人。各社でクラウドを活用したソリューション事業を統括する、エンタープライズクラウドのキーパーソンたちだ。

富士通が手掛けるクラウド案件は「月500件」

 パネル討論会の冒頭、モデレータ役の木村岳史 日経コンピュータ編集長が各社のユーザーのクラウド活用状況を尋ねたところ、メーカー幹部は異口同音に「今年に入って、企業のクラウド活用は急速に進んでいる」と語った。

 日本IBMの吉崎執行役員は「今年は企業のクラウド導入が去年よりもはるかに進んだ。エンタープライズクラウド元年といえる。コスト削減以外の目的で導入するユーザーも増えてきた」と説明した。ビジネススピードの向上、資産の変動費化、セキュリティガバナンスの向上、新規ビジネスの創出といった目的でのクラウド導入が増えているという。

 富士通の阿部常務は「今年に入って月平均500件のクラウド案件がある。昨年は『クラウドとはどう使うものなのか』という相談が多かった。ついに企業でのクラウド活用が実践に入ったと感じている」と説明した。最近は基幹系システムとの連携案件が多く、「案件の約4割ほどがパブリッククラウド、プライベートクラウド、既存の基幹系システムをどう連携させるかというもの」とした。

 日立の佐久間常務は「先行き不透明な景気を背景に、TCO(総所有コスト)削減を狙ったクラウド導入が多い。特に流通業、金融機関、自治体が増えている」と語る。「ある製造業のユーザーは調達システムの刷新に当たって、当社のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を採用した。これにより、開発期間を当初想定の半分に短縮できた」と、企業のクラウド活用が成果を上げ始めていると強調した。

 NECの龍野執行役員は「個々の企業が導入するクラウドから、業界横断、業界共通のクラウドへと広がっていく」と予想した。同社は住宅業界、建設業界、生命保険業界向けに、業界共通で使うクラウドサービスを展開すべく事業を進めている。

運用管理や人材も課題に

 企業へのクラウド導入が進むなか、浮かび上がってきた課題も多い。よく指摘されるセキュリティとサービス品質は、各社とも課題になっているとの認識を示した。加えて、各社がクラウド導入支援の実績を積むとともに、これ以外の課題もあることが分かってきた。

 日立の佐久間常務は「クラウドの運用管理が課題になっている。TCO削減ではサーバーやストレージの集約が一つの解になるが、集約が進むほどに実は運用が複雑化する。運用管理コストに関するユーザーからの相談が増えている」という。

 「グローバル化への対応と人材が課題」と富士通の阿部常務は指摘する。グローバル化については「個人情報を他国のサーバーに置くということが、米国と欧州では大きな懸念事項になっている。今後、日本もそうなっていくだろう。グローバルでのデータの持ち方やアプリケーションの配置の仕方が課題になる」と説明。人材については「クラウドに対応して考え方を変えられるか、どう人材を育成していくかはメーカーもユーザーも課題になる」とした。

 NECの龍野執行役員も課題は人材だと話す。「多くの企業は業務プロセスなどで過去の遺産を引きずっている。クラウド導入ではこれらの再検討が必要になるが、適切なメンバーを選定できないユーザーも少なくない」という。「クラウドが生み出すチャンスは色々あるが、それをつかむにはユーザー自身の力が必要だ」と、ユーザーの情報システム部門も変わらなければならないとのエールを送った。

 日本IBMの吉崎執行役員はやや異なる観点から「どの業務からクラウドを適用するかの見極めが重要」と主張した。「業務にはクラウドの活用が適した『クラウド・スイートスポット』と、そうではないものがある」という。具体例として、データ分析や仮想デスクトップ、メール、業界別アプリケーションなどは典型的なクラウド・スイートスポットであるとした。

 モデレータの木村編集長はパネル討論会の締めくくりに「ここ1年、日経コンピュータでは『なぜこんなに書くのか』と言われるほどクラウドを取り上げてきた。実は過去に2回同じことがあった。一つは90年代初頭のダウンサイジング、もう一つは95年のWebコンピューティングだ。どちらもブームは2~3年で終わった。クラウドのブームももうすぐ終わるだろう。しかし、ブームが終わった先にこそコンピューティングの未来がある。いよいよ地に足の着いたクラウドの活用事例やメーカーの提案が出てくる」と、クラウドが企業情報システムに定着した“当たり前の存在”になっていくと予想した。