写真●講演するNTTドコモ スマートフォン事業推進室の山下哲也氏
写真●講演するNTTドコモ スマートフォン事業推進室の山下哲也氏
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 「スマートフォンは国内で2010年に400万を超える。2011年には、その倍近くにまで増えるのではないか」。スマートフォン市場の急伸を予測するのは、NTTドコモの山下哲也氏。東京ビッグサイトで開催されているITpro EXPO 2010で行われた緊急特別講演で、山下氏はスマートフォンとクラウドをかけ合わせた今後の世界の姿を予想した。

 山下氏はNTTドコモでスマートフォン事業推進室 アプリケーション企画担当部長を務める。緊急特別講演は「クラウド × スマートフォンが変える明日---産業革命以来の「変化」その進化に臨む戦略とは」と題して行われた。急速に普及するクラウドとスマートフォンが車の両輪になって、ライフスタイルやワークスタイルに大きな変化をもたらすという。

スマートフォンを再定義してみると?

 山下氏は、まず「スマートフォンにはいろいろな定義があり、人によって見方や評価が異なる。ここで我々はスマートフォンを再定義してみたい」と切り出した。「通常の携帯電話は、すでに非常に高性能で多機能になっている。しかし、通常の携帯電話は電話の思想を引き継いでいて、製造後に進化しない。黒電話にはSkypeは載らない」と山下氏。

 一方で、スマートフォンは同じく高性能で多機能であっても、電話ではなくコンピューティング・デバイスである点が異なるのだという。「スマートフォンは製造後もアプリケーションやソフトウエアが更新されるなどして進化をし続ける。ここが携帯電話とスマートフォンを分けるポイントだ」。そして、“インターネットと個人を結ぶスマートなコネクター”がスマートフォンの本質だと定義した。

 他方でクラウドも、その特性を示すキーワードを拾うと「高性能、多機能、スケーラブル」(山下氏)となると言う。さまざまなクラウド・ソリューションが提供されており、規模も内容も、常に進化し続けている。要するに、スマートフォンとクラウドの共通点をピックアップすると「進化し続けること」となるというわけだ。これらが結合すると、一層大きな進化が生まれ、進化の速度に同調できるものだけが今後の世界で生き残れると説明する。

 ここで山下氏は、具体的な例としてAndroid端末で使える「Googleマップナビ」を例に挙げた。「歩いている状態ではいわゆる“マンナビ”にもカーナビにも使える。どこでも使えて、多くの最新情報を得られる。そしてそれが無料で使える。これがクラウドとスマートフォンが統合した1つの形」だという。

産業革命以来の大変革が情報革命

 ここで山下氏は、スマートフォンとクラウドは、産業革命に匹敵する大きな変化をもたらすと話を踏み出した。「産業革命は、機械で大量生産する時代の到来だった。私たちは大量生産を前提とした組織や、ライフスタイルの中で生きている」(山下氏)。一方で、「今は情報による革命が起こっている。クラウドは新しいサービスを今すぐに誰でも作れて、グローバルに公開することもできて、常に進化し続ける。同じことはAndroid端末にも言えて、誰でも作れてグローバルに使えて、進化する」。これが、情報による革命の原動力になるというのだ。

 スマートフォンとクラウドが組み合わさることで、私たちは常時インターネットにつながれるようになる。すなわち、人もモノも24時間を通して世界とつながるというわけだ。それによって「情報の伝達や共有、保存の方法を、これまでと違う形で取り組まなければならなくなる」。その新しい形について山下氏は「いかなるデバイスでも情報を保存でき、必要なときに自分の記憶を世界中どこにいても自由に引き出せる『Evernote』がその代表例だ」と言う。原則無料というクラウドの基本の形を保ちつつ、生活や活動を支えるパートナーになってくれる。

 そして、ここに情報革命のポイントがあるというのが山下氏の主張だ。「産業革命以来の社会は、階層集団を中心として動いてきた。ところがクラウドとスマートフォンの時代には、集団から離れて純粋に個人のレベルに帰着する。たとえば、今までならば数億円の投資と時間が必要だった新サービスであっても、今後のクラウドとスマートフォンの時代には個人ですぐに初期費用もかけずに始められる」。個人のアイデアを実現できる世界であり、個人に愛着を持たれるサービスが利用される時代なのだという。

自ら作り、スマートでオープンに

 最後に山下氏は、進化を続けるスマートフォンとクラウドを使って、今後の個人をベースにした時代に生き残るための3つのポイントを示した。

 1つ目は「自ら作る」こと。スマートフォンとクラウドの時代には、個人でサービスでもコンテンツでも作れるようになる。個人で創作したりアイデアを実現することが重要だと説く。

 2つ目は「スマートに」。ごちゃごちゃとしたものを作り提供するのではなく、引き算の考えでシンプルに作ることが、すなわちスマートにつながる。スマートなものこそ愛着を持たれるサービスになると言う。

 3つ目は「オープンに」。スマートフォンとクラウドの時代には、その進化のスピードに同調できたものだけが生き残っていくと言うのだ。スピードを保つためには、積極的にオープンな状況を保持し、外の情報を取り込んでいく必要があるという。講演の最後にオープンでないと生き残れないと強調する山下氏の姿に、スマートフォン時代に突入したNTTドコモの決意が垣間見えた。