写真●JTBの志賀典人常務取締役経営企画担当・事業創造担当・IT企画担当
写真●JTBの志賀典人常務取締役経営企画担当・事業創造担当・IT企画担当
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 「社内情報システムにかかわる人たちがフラストレーション(欲求不満)をためないようにするのがCIO(最高情報責任者)の役割だ」。

 東京ビッグサイトで2010年10月20日まで開催中のITpro EXPO 2010展示会において、旅行代理店大手JTBのCIOである志賀典人常務取締役経営企画担当・事業創造担当・IT企画担当(写真)が基調講演を行った。「JTBグループにおける長期IT戦略とCIOの役割」と題し、IT(情報技術)活用の基本方針と、その中での自身の役割について熱弁をふるった。

 志賀常務取締役は『日経情報ストラテジー』が選出する「CIOオブ・ザ・イヤー2010」の受賞者である(関連記事1関連記事2)。ナンバーワンCIOの立場から、売上高1兆円超、グループ従業員数約3万人という大きな組織におけるIT戦略のあり方を語った。

 志賀常務はまず、JTBの置かれている事業環境を説明。「2007年度に1兆3000億円あった売上高は、2009年度には1兆1200億円まで落ち、大変厳しい業績になっている。リーマンショックや新型インフルエンザなどの影響が大きかったが、一時的なものではなく構造的なものだと考えている」と話した。

 そのうえで、今旅行業界で起きている変化を説明。国内における人口減少・少子高齢化、IT(情報技術)の進化、グローバル化、という3つの環境変化要因を挙げた。「国内の人口は減っており市場縮小が進む。ITの進化で個人が自分で交通機関や宿泊施設を簡単に予約できるようになってもいる。訪日外国人は増えているが、ここではJTB以外の海外の旅行代理店との競争になる。これらの変化に対応しなければ生き残れない」と志賀常務は話した。

「IT戦略委員会」で社内をけん制

 こうした状況から、JTBは2006年度以降「総合旅行事業から交流文化事業への進化」を掲げて、事業内容とITの変革を推進している。クラウドコンピューティングや仮想化技術などを活用し、システムコストを2015年度までに従来比で20%削減する目標を掲げる。

 ただし、当初はなかなかうまく進まなかったという。「JTB社内には、経営、ユーザー、システム部門という3者がいて“3すくみ”状態になっていた。経営者はコストがかさむと思い、ユーザーはシステム部門が現場の実態に合っておらず使い勝手が悪いと思い、システム部門はユーザーから何もかも要求される。3者ともフラストレーション(欲求不満)をため込んでいた」と話す。

 そこで、志賀常務は2005年から「IT戦略委員会」を設置。経営、ユーザー、システム部門の3者が代表者を出して、定期的に議論する場を作った。委員長は志賀常務が務める。例えばユーザーが使い勝手を良くするために過大な機能を要求したときには、「投資対効果を考えた方がいいですよ」と話し、オーパースペックになるのをけん制する。委員会は徐々に機能するようになり、3者が納得しやすいシステム投資が行われるようになっていったという。

 志賀常務は「3すくみをコントロールし、関係者がフラストレーションをためないようにすることこそがCIOの役割だ」と話し、講演を締めくくった。