写真●楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所長の森正弥氏
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 「現実とITが一体となる世界では、個人の力がより大きな意味を持つ。そんな“サードリアリティ”の波に備えよ」。楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所長の森正弥氏は2010年10月19日、ITpro EXPO 2010のクラウド・フェスタフォーラム基調講演に登壇し、こう指摘した。同氏はインターネットの世界で進行している新たな変化を展望し、今後のITやビジネスのあり方に大きな影響を及ぼすと述べた。

 同氏の言うサードリアリティとは、(1)皆が常にどこでもネットにつながっている、(2)クラウド上の膨大なインフラリソースを使える、(3)それらで皆が結び付きあって新しい成果を生み出していく---という世界を指す。サードリアリティの具体例として、Ruby World Conference 2009で森氏が手掛けたパネルディスカッションを挙げた。

 このパネルディスカッションでは、パネリスト全員がTwitterを使っていて、発言の合間に追加の意見や感想をつぶやいた。会場の様子もUstreamで動画配信し、パネリスト自身もそれを見ながらディスカッションした。会場にいる聴衆は「そこはもっと突っ込んでほしい」などのリアクションをTwitterで投稿でき、Twitterでの議論が盛り上がったところで司会者がリアルのパネルディスカッションにフィードバックする、という現実とネットが一体化した世界で議論を進めた。こうした形のカンファレンスは増えているという。

 森氏は、「重要なのは、会場にいて、目の前のパネルディスカッションを見ているだけでは、何が起きているのか全体を見渡せなくなっていたことだ」と指摘する。これがサードリアリティの特徴だと話す。

 実空間しかない世界を“ファーストリアリティ”とするなら、今われわれがいるのは、現実とネットの中の別世界を持つ“セカンドリアリティ”。そしてサードリアリティは、現実とネットが混然一体となり、膨大なクラウドリソースを使いながら皆が結び付き、新しい成果を生み出していく場となると、森氏は説明する。

 サードリアリティでは、「Webの発展により組織がフラット化し、相対的に個人のクリエイティビティが企業の業績に大きくかかわるようになる」(同氏)。クラウドの力を利用して、個人が無数の力を持ち得る存在になってきている。

 ここではビジネスモデルも変わる。組織を作って投資し、設備を作ってデータを囲う、といった戦い方では、今後おそらく勝てなくなる。森氏は、「多数の個人の力をいかに引き出すか、いかに集めるかが、組織の重要な戦略になる」と話す。

 サードリアリティは、すでにじわじわと勢力を広げつつある。森氏は「サードリアリティの本格化に備えるために、IT活用の新しいやり方を考えることが重要だ」と強調した。