写真●初日のパネルディスカッションでクラウドの将来像について語る各ベンダー代表の4人
写真●初日のパネルディスカッションでクラウドの将来像について語る各ベンダー代表の4人
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 クラウドサービスの最新動向とはどんなものか、これからの課題やユーザーの活用ポイントは何か---。「ITpro EXPO 2010」展示会初日のICTパネル討論会では、クラウドベンダー4社の事業責任者らが集まりパネルディスカッションを実施した(写真)。

 今回のパネルは開場前から入り口前には長い列ができるほどの人気となった。そんな中、ステージには、グーグルの藤井彰人氏(エンタープライズ プロダクト マーケティング マネージャー)、セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次氏(代表取締役社長、米セールスフォース・ドットコム 上席副社長)、日本オラクルの三澤智光氏(常務執行役員 テクノロジー製品事業統括本部長 兼 クラウド&EA統括本部長)、マイクロソフトの大場章弘氏(執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長)の4人が登壇し、クラウドの将来像を語った。モデレータはITproの吉田琢也編集長が務めた。

 ディスカッションで全員が共通して語ったのは、クラウドの実利用が急速に広がっていることだ。大場氏は、2010年1月に国内サービスを開始した「Windows Azure」で、同年4月の時点では1000種しかなかったアプリケーションが、6カ月で8000種にまで増えたことを例に挙げた。藤井氏によると、「Google Apps」のユーザーもこの1年で爆発的に増加し、既に何千万という数に達しているという。宇陀氏は、2010年10月5日に開催したセミナーで2日間に7000人もの来場者があったことを挙げ、クラウドサービスへの注目度の高さを実感したと語った。

 その一方、今後どのような分野に注力するかという展望や、クラウド化を進める主体として想定するのは誰かという点については、立ち位置による違いが見られた。

 プライベートクラウドの導入・構築に重点を置き、基幹システムのクラウド移行を視野に入れるオラクルは、移行の前段階として「アプリケーションの近代化」(日本オラクルの三澤氏)に注力する。現在稼働中のアプリケーションをそのままクラウドに移行させようとしても、一般にうまくいかない。先に移植性や柔軟性を高める必要があり、そのためにフルJava化やWebサービス化などを進めているという。

 Microsoft Officeなど多数のアプリケーションを販売するマイクロソフトにもこうした視点がある。「全社でクラウドにシフトして行く」(マイクロソフトの大場氏)方針の同社は、Windows Azureの今後の強化点の一つに、既存アプリケーションとクラウドアプリケーションの連携機能(開発コード:Project Sydney)を挙げている。また、プライベートクラウド構築用の「Azure Appliance」も数年内に発売するという。

 この両社の視点では、クラウド化を進める主体はユーザー企業のIT部門である。エンドユーザーが独自にクラウドサービスを利用するなどして、状況が複雑化することも考えられるため、「一番重要なのはアーキテクトであり、それがあって初めて全体最適化ができる」(大場氏)。

 それに対して藤井氏や宇陀氏は、非IT部門、特に経営者の主導による移行事例について多くを語った。クラウドサービスの利用は、「郵便事業者に配送を任せる」(グーグルの藤井氏)ことや、「タクシーを利用する」(セールスフォース・ドットコムの宇陀氏)ことと同じであるとし、すべてを自前で賄う場合に比べて企業の、そして特にIT部門の負担が減るとした。

 もっとも三澤氏も「コンピュータプラットフォームの工業製品化を目指す。車で言えば完成車を提供するようなものにする」と語っており、将来像としてはそう異なったものを見ているわけではなさそうだ。