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 「スマートシティ市場の戦線は急拡大している。そこでのポジションの獲得は一刻を争う」--。日経BPクリーンテック研究所長の望月洋介氏は2010年10月18日、ITpro EXPO 2010のテーマセッションに登壇し、こう指摘した。同氏は世界各地で進んでいる100のスマートシティプロジェクトの調査結果を紹介しながら、IT業界を含めた日本の産業界が進むべき方向性を語った。

 スマートシティプロジェクトは、米コロラド州の「スマートグリッドシティ」や、ドイツの「Eエナジー」、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで進む「マスダール」、中国の「中新天津生態城」、韓国の「Uシティ」プロジェクトなど、世界各地で目白押しだ。いずれも、「兆円単位の資金が動く超大規模プロジェクト」(望月氏)である。

 日本国内においても、2010年に入ってから急速にプロジェクトが活発化している。2月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)においてスマートコミュニティ・アライアンスが発足。4月には日立製作所が全社横断の「スマートシティ事業統括本部」を社長直轄の組織として立ち上げた。

 同じく4月には経済産業省が「次世代エネルギー・社会システム実証地域」を選定。神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府のけいはんな学園都市、福岡県北九州市の4都市を指定した。6月には政府が新成長戦略を閣議決定し、環境型未来都市構想やインフラシステムの海外展開をうたっている。7月には環境モデル都市構想が発表され、9月から10月にかけてはスマートシティ分野に向けての企業各社の提携発表が相次いだ。

2030年には3100兆円規模に

 スマートシティの実現には様々な要素が欠かせない。発電、送電、電池、電気自動車、住宅といった個別要素はもちろん、これらを包括的に管理し協調動作させる要素として、ITが不可欠になる。望月氏は、「電気、建設、自動車などの各要素をつなぐ『横ぐし産業』として、ITには大きな期待が寄せられている」と語る。

 なぜ、世界各国がスマートシティプロジェクトを矢継ぎ早に進めるのか。都市部の人口爆発、資源対策、CO2削減などさまざまな理由があるが、やはりプロジェクトを通じて様々な産業が育成できることが大きい。例えば、米国のスマートシティプロジェクトには、米コンサルティング会社のアクセンチュアやIT機器メーカーのシスコといったIT関連企業が主体的にかかわっている。「米国はスマートシティプロジェクトを通じて、新たなIT産業を育成することを狙っている」(望月氏)のである。

 望月氏らクリーンテック研究所の試算によれば、スマートシティのエネルギー分野についての世界市場規模は、2010年は約45兆円程度。これが2030年には3100兆円もの規模になるという。同研究所は調査レポート「世界スマートシティ総覧」を発行するにあたって、スマートシティのエネルギー分野における構成要素を定め、太陽電池や、風力発電、蓄電池、充電池、送配電設備、IT投資など、それぞれの市場規模を調べて積み上げた。市場規模の内訳やビジネスチャンスの所在といった詳細は、同レポートに記載されている。

すでに「指定席を取り合う争い」

 望月氏によれば、スマートシティ分野ではすでに「“指定席”を取り合う争いが大々的に始まっている」。スマートシティプロジェクトはいずれも50年、100年単位のタイムスパンで進む。投資回収のタイミングは10年後、20年後といった単位である。一見気の長いプロジェクトに思えるが、企業ビジネスの観点から見ると、「もはや一刻を争う状況だ」(同)という。

 多くの場合、パイロット都市でスマートシティプロジェクトを実施し、そのノウハウを他の都市に横展開する格好である。それだけに、「直近のパイロットプロジェクトに優位なポジションを確保できるかどうかで、その後数十年のビジネスが決まる」(望月氏)。

 代替エネルギーの知財については、日本の産業界は圧倒的に強い。国連内にある知財関連の国際組織WIPO(World Intellectual Property Organization)が発行するレポート「Patent-based Technology Analisys Report」によれば、代替エネルギー分野の特許取得数のナンバーワンは日本だ。全特許数の55%を占める。望月氏は「日本はこうした底力を生かして、世界におけるポジションを早急に確保すべきだ」と強調する。

 一つのカギを握るのが、産業同士の情報流通だ。産業同士の相乗効果が大きく出るスマートシティ分野においては、産業横断的なアクションが生きる。

 企業には今以上の柔軟性と機動性が求められる。その例として望月氏はシャープを挙げる。太陽光パネル事業を展開しているシャープは2010年9月、太陽光発電プラントの開発事業者である米リカレント・エナジーを買収すると発表した。つまり、スマートシティ時代のシャープは、発電所の会社に変わっていてもおかしくないということだ。ITベンダーにも同様の柔軟な姿勢と機動性が求められる。

 政府も成功を支える要素の一つである。スマートシティは国と地域を巻き込んだビッグプロジェクト。望月氏は、国内のプロジェクトを成功させるにしても、海外のプロジェクトに参画するにしても、「スマートシティには政府の推進力が欠かせない」と指摘した。