写真●野村證券の木内登英 金融経済研究所 経済調査部長 兼 チーフエコノミスト
写真●野村證券の木内登英 金融経済研究所 経済調査部長 兼 チーフエコノミスト
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 「日本経済は年末から年始にかけて二番底を迎える。だが日本政府が政策を総動員すると見込まれ、春ごろから回復していくだろう」。野村證券の木内登英(たかひで) 金融経済研究所 経済調査部長 兼 チーフエコノミスト(写真)は、日本経済の先行きをこう見通した。同氏は、2010年10月18日から東京ビッグサイトで開催中のITpro EXPO 2010において、「2011年の日本経済を読み解く~トップエコノミストが来るべき再成長への道筋を分析」と題して基調講演を担当した。

 木内氏はまず世界経済の状況を解説。「世界的に見ても経済が厳しいのは年明け」とした。「今まで日本や欧米、中国は景気対策を進めてきたがそれが年末で切れる」ことが理由だという。日本のエコポイントや中国の四兆元の景気対策、米国の所得税減税などは年末から来年春にかけて切れていく。ドイツやオランダ、フランスといったヨーロッパの中核国は、新しい会計年度となる年明けから、赤字を減らすための緊縮財政が進む。

 こうしたなか、日本は円高が収まらず「一人負けの状況になる」という。「今の円高は日本経済が強いために買われているのではなく、一時的な退避場所となる安定通貨として買われているから」と話す。

 このため、世界経済が年末年始にかけて「円が70円台にとどまる」状況が続き、「日本経済は年末から年始にかけて、2008年の年末ほどにはならないものの、景気後退が進んで二番底を迎える」。

 だが二番底が来春にも回復するというのが木内氏の見通しだ。この理由を「政権交代によって金融政策、財政政策、為替政策、税制改正など、政策を総動員しているため」と話す。「民主党は自民党よりも日銀に対して金融政策の実施要請が強いうえ、自民党政権下でも10年以上下げられなかった法人税引き下げを実施する方向に向かっている」。

 ただし景気回復のシナリオには一つの条件があるという。それは日銀が長期国債を買い取るように方針転換をすること。「日銀は歴史的経緯から国債の買い取りには積極的ではないが、日米の中央銀行がゼロ金利政策を打ち出して金利差がなくなった今、通貨の価値や為替レートを決めるのは通貨の量的な緩和である。つまり中央銀行のバランスシートの大きさである」と話す。現在、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)が来年までに約50兆円の国債を買うとしており、「経済規模が半分としても日本は25兆円の国債を買わなければ為替レートを押し下げることはできない」。

 「日銀は『日銀券ルール』という日銀券(お札)の発行額を国債の購入額が上回らないようにするルールを持っている。日銀券の発行額が75兆円で長期国債の購入額が55兆円」という。これに対して政府がルールの撤廃を要請しているという。歴史的経緯から政府の財政赤字を増やすことにつながる国債の買い取りには積極的ではない日銀自身も円高や不景気に配慮してルールの撤廃に動いていると木内氏は話す。「年末には見直して、これが転換期となる。円は再び80円前半ぐらいまで戻るだろう」。また「為替介入は協調介入ではないため効果は薄い。先般の2兆円規模の介入も従来の半分程度の期間しか円高を防衛できなかった。やはり国債の買い取りが円高を抑える」。

 さらに政府が10月初旬に打ち出した追加経済対策が年明けから景気回復に効いてくると木内氏は話す。「5兆円規模の追加経済対策のうち、公共投資に1兆5000億円程度が当てられる。地方では生活に必要な医療機関の整備や災害対策だけでなく、都市部では普及効果の高い渋滞対策や環状線の整備、羽田空港の拡張といった、波及効果が高い公共投資は『良い公共投資』と評価できる。GDP(国内総生産)を0.6%ぐらい押し上げそうだ」。