写真●猪瀬直樹 東京都副都知事
写真●猪瀬直樹 東京都副都知事
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 作家で東京都副都知事の猪瀬直樹氏が2010年10月18日から始まったITpro EXPO 2010展示会で講演、「東京が持つ世界最高の水道システムや地下鉄を途上国へ売り込みたい」「(日本の将来は)30代の人たちが、これからどういう見通しを持つか、生き方をするかにかかっている」と熱弁した(写真)。

 猪瀬氏によると、東京都水道局の漏水率(上水道の中で水が漏れる割合)はわずか3%。料金回収率は99.9%に達するという。これは他国と比べて極めて優れた数字で、漏水率はヨーロッパで10~20%、アジアの都市では40~50%になる。料金回収率も「国によっては盗水がある」(猪瀬氏)ので、東京都ほどは高くない。さらに、水道水を飲める国は日本を含めて世界でわずか11カ国しかないとする。「本郷にある『水運用センター』では、東京中の圧力計を監視し、水圧を高度に管理している。例えば、朝の時間帯は水の使用量が多いのでわずかに水圧を上げ、しばらく経つと水圧を下げる」(猪瀬氏)。

 このように世界最高の技術を持つ東京都水道局だが、「フランスやイギリスの『水メジャー』(水ビジネスを手がける大企業)が世界に跋扈している一方、日本は高度な技術が『官』にしまい込まれているので世界へ出て行けない」と指摘。このままでは水道システムに関する個別分野では高度な技術力を持つ日本のプラント企業が、水メジャーの下請けに甘んじることになると警告する。

 そこで東京都では地方公営企業法の付帯事業として東京の水道システムをマレーシアやインドネシア、ベトナム、モルディブにシステムごと売り込むことを計画中だ。「現政権には国家戦略が全くない。だから新幹線や原子力発電所の売り込みがうまくいかない」ので、自治体レベルで海外展開しようという考えである。「官にしまわれた技術を民間に開放して、市場を作り、雇用を増やすことが重要だ」(猪瀬氏)。

 一方、東京の地下鉄には別の問題があるという。「東京メトロはもう地下鉄を作るところがない。だから地下鉄の建設部隊や技術を途上国に売り込みたい」(猪瀬氏)。

 そして、こういった重要な戦略や事業を手がけるのはとりわけ30代であると強調する。30代の若手エリートが日米開戦前に日本敗戦をシミュレートする様子を描いた自著「昭和16年夏の敗戦」を手に掲げながら、「30代はしがらみがないので、適切な材料があれば3年後、4年後を正しく見通せる」とエールを送り、講演を締めくくった。