写真●日経コンピュータの中田敦記者
写真●日経コンピュータの中田敦記者
[画像のクリックで拡大表示]

 「クラウドコンピューティングは、過去にメディア/広告業界に打撃を与え、今はコンピュータ産業を席巻中である。次の世代では自動車や電力、交通などの産業を掌握するかもしれない」---。2010年10月18日、東京ビッグサイトで開幕した「ITpro EXPO 2010」展示会で、日経コンピュータの中田敦記者(写真)が「『クラウドコンピュータ』が変える産業構造」と題して講演した。

 まず中田記者は、10月に報道された米Googleに関するニュースを2つ紹介した。1つ目は、10月9日に報じられた「Googleが自動運転自動車を開発」のニュース。「Google Mapsの地図システムと、世界屈指のアルゴリズム開発力を、今度は自動車開発に投じようとしている」(中田記者)。2つ目は、10月12日の日本経済新聞に掲載された「Googleと丸紅が海底送電網を建設」の記事だ。2社は、大西洋沖の洋上風力発電所と米国東部を結ぶ送電網に出資した。「国内では丸紅との共同出資と報じられたが、出資規模の差から、これはほぼGoogleのプロジェクトと言ってよい」(中田記者)。

 中田記者は、これらのニュースに注目している理由を、「クラウドコンピューティングの次の展開を予見させるから」と説明する。クラウドコンピューティングは、過去にメディア/広告産業の構造を激変させた。今は、Webブラウザ上で提供される高速/高機能のサービス群によって、コンピュータ産業を席巻している。そして、「次の段階では、メディア、コンピュータにとどまらない、あらゆる業界に産業革命をもたらす可能性がある」(中田記者)。

 中田記者は、「クラウドコンピューティングがあらゆる産業にとって脅威となるのは、機械学習能力の高さや処理の高速さもさることながら、そのインフラであるデータセンターに規模の経済が働くからだ」と考える。データセンターの規模を拡大すればするほど、ネットワークコスト、ストレージコスト、管理コストが低下する。サーバー1000台規模の中規模データセンターと比較して、サーバー5万台以上の大規模データセンターはネットワークコストが7分の1以下、ストレージコストは5分の1以下に抑えられる。サーバー台数に比例して増加するように思われる管理コストにおいても、「巨大データセンターでは、サーバー同士がデータやシステムをバックアップしあっているため、サーバーが1台故障しても放っておく。従って、サーバー台数が増加しても管理コストは一定に保たれる」(中田記者)。

 トヨタ自動車は、クラウドコンピューティングの自動車産業への参入に備えて、既に動き始めている。同社は、10月5日にスマートグリッドの自社開発に乗り出すことを発表した。「電気自動車のインフラとなるスマートグリッドをクラウドベンダーに席巻されてしまったら、世界のトヨタといえども自動車を自由に作ることができなくなってしまう。そういう危機感の表れだ」(中田氏)。

 最後に中田記者は、「日本の産業界にとって、クラウドコンピューティングの参入は脅威ではあるが、臆する必要はない。今、クラウドに必要な技術のOSS化が進んでおり、FacebookのようにOSSを利用して新しい事業を立ち上げ、急成長している企業もある。自らクラウドを構築し、あるいはクラウドサービスを利用して、Googleの参入に負けない産業を作っていくことは可能だろう」と述べた。