NECは2010年10月13日、ITサービス事業に関する戦略説明会を開催し、2012年度までにクラウドで1000億円、海外向けで1000億円の増収を目指すと発表した。クラウドに関しては、従量課金で利用できるIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)は「提供しない」(富山卓二取締役進行役員常務)と明言。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やプライベートクラウドに専念する意向を示した。

 NECの2010年度(2011年3月期)におけるITサービス事業の規模は、売上高で8900億円(前年度比2.7%増)、営業利益で560億円(同5.3%増)を見込む。リーマンショック以前の2008年度の売上高9338億円には及ばないが、増収増益を予想している。

 ITサービス事業が全社売上高に占める比率は27%(2010年度予想)だが、全社営業利益に占める割合は56%(同)と高く、同社の大黒柱である。一方、ITサービス事業の売上高を地域別に見ると、日本国内(2009年度実績)が9割強を占め、海外売り上げは全体の1割弱にとどまる。日本のITサービス市場におけるNECの順位は富士通に次ぐ2位にもかかわらず、世界市場で見ると8位と大きく出遅れている。

 富山常務は、ITサービス事業の売上高を2012年度に1兆1000億円までに伸ばすために、「クラウドで1000億円、グローバルで1000億円、売り上げを積み増す」とし、そのための施策を解説した。

 ITサービス事業におけるクラウド関連売り上げは、2009年度に100億円だったが、それを2012年度までに1100億円にまで増やす。特に、各種SaaSの提供や、顧客の既存システムをNECのデータセンターに移行するビジネスに力を入れる。2010年10月には、NECグループ全体のクラウドサービスを企画・開発する「クラウド戦略室」を設け、50人のスタッフを配置。各事業部門に配置した350人のクラウド担当者と連携して、サービス開発に当たる。

 ただし、インターネット経由で誰でも従量課金制で利用できる「パブリッククラウド」に関しては、SaaSの提供にとどめる考えだ。「ITインフラを提供するIaaSや、アプリケーションプラットフォームを提供するPaaSに関しては、プライベート型でのみ提供する。不特定多数が時間貸しで利用できるPaaSやIaaSは提供しない」(富山常務)としている。

 データセンター投資は、日本国内の主要10カ所に集中する。従来は国内50カ所以上でデータセンターを運営していた。投資を集中することで、効率化、高機能化を図る。一方、「海外に自社でデータセンターを建造する考えはない」(富山常務)。代わりに各国の事業者と連携し、それぞれの事業者が運営するデータセンターをつないで統一的なサービスを提供する「グローバルサービスネットワーク」を構築する。

 NECは8月に、中国IT大手の東軟集団(Neusoft)と提携し、合弁会社「日電東軟信息有限公司」を設立した。これがグローバルサービスネットワーク構築の第一弾となる。同様にアジア太平洋地域(APAC)、米国、ヨーロッパでも今後、提携していくことで、世界5極体制にするとしている。

 グローバル事業に関しては、日本で企画したサービスを海外に展開するだけでなく、現地でのサービス開発・提供を強化する。海外に進出した日系企業だけでなく、現地の企業や多国籍企業をターゲットにする。

 加えて海外でも、公共機関向けサービスを拡充する。特に注力するのが、既に米国やシンガポール、南アフリカ、ブラジル、コロンビアなどへの導入実績がある指紋認証システムだ。

 ソフトウエア事業の利益面に関しては、開発の標準化とプロジェクトの進行状況の「見える化」を進める「ソフトウエアファクトリ」の導入を進める。2010年度下期から、一部のプロジェクトで導入を開始。2012年度までに、NECグループの1万人に適用する。これらによって、プロジェクト工期の3割短縮と、開発原価の2割低減を実現し、同事業の営業利益率を2009年度の6%から2012年度には8%にまで改善する。