マイクロソフトは2010年9月27日、次期Webブラウザー「Internet Explorer 9」(以下、IE9)のベータ版に関する報道関係者向けの説明会を開いた。同ベータ版は2010年9月15日(米国時間)に一般公開され、国内からもダウンロードおよび利用が可能。米国では公開当日に発表イベントが行われたが、日本法人として初めて概要説明およびデモンストレーションを行った。
IE9がベータ版に至るまでの道のりは、従来のIEとは若干異なる。従来はベータ1→ベータ2→RC(製品候補版)のように開発中の評価版を公開してきたが、IE9では、ユーザーインタフェースなどを簡略化し、基盤となる部分だけを開発者向けに提供する「プラットフォームプレビュー版」を2010年3月に公開。このプラットフォームプレビュー版を4回にわたりアップデートした後、5回目の更新と併せて、ユーザーインタフェース周りを含む新機能を加えた「ベータ版」を公開した。
2日間で200万ダウンロードを記録
同社コンシューマー&オンラインマーケティング統括本部コンシューマーWindows本部本部長 兼 ウインドウズライブ本部本部長の藤本恭史氏は、「プラットフォームプレビュー版は累計で280万ダウンロードを達成し、ベータ版を提供する前に、IE9に向けた対応をしていただいた。さらにベータ版は2日間で200万ダウンロードを記録。これは驚異的な数字で、IE8のときは5日間で130万ダウンロードだった。プラットフォームプレビュー版の段階からIE9への期待値は高かったが、ベータ版の公開で一気にお客様の期待が広がったと思う。またこの期待値に見合うクオリティのベータ版を出せたのではないかと考えている」と話す。同ベータ版用のデモを公開するWebサイトには、4日間で900万ユーザーが訪れ、2600万ページビューを獲得したといい、IE9の注目度の高さが伺われる。
製品概要を説明した同コンシューマーWindows本部の溝口宗太郎氏によると、IE9の開発に当たって、Webアプリケーションをいかにローカルで動くネイティブアプリケーションに近づけられるかという目標が掲げられたという。「静止画とリンクだけのWebページから、だんだんインタラクティブ性を持ったWebコンテンツが作られ、最近ではメールやオンラインストレージのようなWebアプリケーションが台頭してきた。しかし、Webアプリケーションはまだパフォーマンスや使い勝手において、パソコンにインストールするWindowsネイティブのアプリケーションと差がある。我々としては、Webアプリケーションに関してもネイティブアプリケーションと同じような使い勝手を実現したいと考え、IE9の開発を進めてきた」(溝口氏)。
新JavaScriptエンジンとGPUによる描画で高速化
具体的にはまず、高速化が挙げられる。IE9では、「Chakra」と呼ばれる新しいJavaScriptエンジンを搭載。今や主流となっているマルチコアCPUの能力を生かし、空いているコアを利用したバックグラウンド処理を並行して行うことで、JavaScriptを高速に処理する。また、IE8まではブラウザーの外部にあったJavaScriptエンジンをブラウザーの内部に実装することで、効率よく処理できるようにした。JavaScriptの処理速度を測るベンチマーク「SunSpider」では、IE8に比べて10倍以上速い結果を得られたという。
さらに、「IE9の一番のスピードアップに寄与している」(溝口氏)のが、GPU(グラフィックスチップ)による画面描画(レンダリング)。これまでのブラウザーはすべてCPUを使って描画していたが、IE9ではGPUを使って高速に描画する。「GPUと言っても、特別な拡張カードなどを搭載する必要はなく、皆さんのパソコンには必ずGPUが搭載されている。ハイエンドなGPUでなくても、IE9の動作環境であるWindows Vista/7の動作環境を満たすGPUであれば、基本的にIE9の恩恵を受けられる」(溝口氏)。
ユーザーインタフェースも大きく改良された。タブをアドレスバーの右側に配置して、余計なボタンやステータスバーは非表示に。これにより、Webページの表示領域が広くなり、全体的にスッキリとした画面構成になっている。検索ボックスはアドレスバーと統合され、アドレスバーに直接キーワードを入力し、検索することができる。
タブをブラウザーの外にドラグ・アンド・ドロップするだけで、新しいウインドウに分離できるのもIE9の特徴。これは他社のブラウザーも備えている機能だが、IE9では動画の再生中にドラッグ・アンド・ドロップしても、再生したままの状態でウインドウを分離できるのが優位点だとする。
Windows 7との親和性もバッチリ
Windows 7上で利用する場合の使い勝手の良さも強調する。その一つが、Windows 7のタスクバーにWebページを「ピン留め」できるようになったこと。アドレスバーの左側に表示されるWebサイトのアイコン(ファビコン)をドラッグ・アンド・ドロップするだけで、タスクバーにこれを配置でき、ワンクリックでWebサイトが開けるようになる。これまではアプリケーションやフォルダーしかタスクバーに配置できなかったが、Webサイトも配置できるようになった。「WebアプリケーションやWebサイトもネイティブアプリケーションと同じように使えるようにしたいというコンセプトが、ここに表れている」(溝口氏)わけだ。同様にタスクバーから開ける「ジャンプリスト」なども、サイト側の対応で利用可能になるという。
同社は、Webブラウザーを「劇場」、WebアプリケーションやWebコンテンツをその中で演じられる「劇」や「音楽」になぞらえる。「ブラウザーはあくまで枠組みであり、その中のWebアプリケーションをいかに快適に使っていただけるか、いかにWindowsと親和性の高い状況でシームレスに使っていただけるかを考えた。コンテンツ自身をもっともっと輝かせるために、ブラウザーの位置付けを少し変えることができないかというのが開発コンセプト。その答えを今回のベータ版で提供することができたのではないか。IE9は、10年を超えるIEの歴史の中で、新たなブラウザーの第一歩を踏み出す重要な意味を持つマイルストーンになる」(藤本氏)。