理事長を務める、東洋大学の山田肇教授。公共調達で、アクセシビリティへの配慮を要件化することの重要性を訴えた
理事長を務める、東洋大学の山田肇教授。公共調達で、アクセシビリティへの配慮を要件化することの重要性を訴えた
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セミナーの様子。聴覚障害者に配慮し、講師が話した内容は逐次テキスト化・表示された
セミナーの様子。聴覚障害者に配慮し、講師が話した内容は逐次テキスト化・表示された
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 ウェブアクセシビリティ推進協会は2010年9月22日、「JIS X 8341-3:2010を活用したウェブアクセシビリティの普及を目指して」と題したセミナーを開催した。障害者や高齢者、Webサイトの運用者など多様な立場の講師が、アクセシビリティの現状と今後について講演した。

 同協会は、2010年4月に認証されたNPO法人。Webに関するアクセシビリティ向上を目指す団体や企業が集まっており、東洋大学の山田肇教授が理事長を務める。Web上のコンテンツに関するアクセシビリティの規格JIS X 8341-3:2010が2010年8月に公示されたことから、今回のセミナーを開催した。

 セミナーの中では、国の行政機関のWebサイトに対して、アクセシビリティの達成度を調べた調査結果が報告された。総務省行政評価局が、全府省34機関(1府11省と、21の外局など)が公開する1514ページに対して、JIS X 8341-3(2004年版)への対応度を調査したものだ。その結果、全体の9割ものページに、JISで「必須項目」とされたテーマについて対応が不十分な点があったという。

 例えば、見出しが適切に設定されていないページは339ページ(30機関)。HTMLのh要素を使って見出しが記述されていないため、音声読み上げソフトなどが見出しとして認識できず、ユーザーが適切に情報を得られない可能性がある。ほかにも、キーボードだけで操作できないページが99ページ(13機関)、リンク画像に設定すべき代替テキストが不適切なページが136ページ(28機関)のように問題が見つかった。さらに、外部業者にサイト制作を依頼する際にJIS対応を求めていない、ページの制作時やリニューアル時に検証をしていない、といった運営体制の不備も明らかになった。

 行政評価局ではこの結果を基に、各府省にWebサイトのバリアフリー化の推進を勧告。Webサイトの企画から保守・運用までのそれぞれの段階で、バリアフリー化に対応するよう求めている。同局のWebサイトもリニューアルし、アクセシビリティへの配慮を高めたという。

 民間のWebサイトの事例としては、ヤフー R&D統括本部制作本部の中野信氏が、「Yahoo! Japan」の取り組みを紹介した。同社では、PDP(Product Development Process)と呼ぶ開発プロセスのガイドラインを用意し、業務効率や品質の改善を図っている。アクセシビリティの確保もこのPDPのプロセスの一要素となっており、設計段階で検討されたり、検証段階でテストされたりしているという。これまでに、同サイトが提供するさまざまな検索サービスについて、ユーザーインタフェースを統一して使い勝手を高めたり、開発作業のワークフローを策定したりといった取り組みを実施してきた。

 JIS X 8341-3:2010への適合度については、現状では「配慮」にとどまっているという。配慮とは、適合度で言えば最も低いものに当たる。現実には社内で各種の施策に取り組んでいるが、JIS X 8341-3:2010に「準拠」と宣言するには試験を実施して適合を確認する必要があり、それができていない状況という。今後はまず、サービス単位でJIS X 8341-3:2010に対応することを目指す。まずは社内の仕組みとJISの基準との整合性の確認を進め、試験を実施する。そして順次、さまざまなサービスに展開していきたいとした。

 理事長の山田氏も講演。日本では2004年にJIS X 8341-3を初めて策定し、Webアクセシビリティの国際標準化についてもさまざまな貢献をしてきたにもかかわらず、操作しにくい製品やサービスがいまだ市場にあふれていると指摘する。その理由は、市場規模が限られているため。アクセシビリティ向上のために研究開発をしても、それに見合うだけの利益が得られないからだという。

 こうした状況を変える可能性があるのが、公共調達でアクセシビリティへの配慮を要件化すること。企業とすれば公共調達での購入が保証されることは大きなインセンティブとなる。政府にとっても特別な支援技術導入のための福祉予算を削減できるし、ユーザーは利用できる製品やサービスが充実するというメリットがある。総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」などで要件化を推進するための議論が進められているという。これが確実に実行されるよう、今後も声を大にして訴え続けていくと強い決意をあらわにした。