TBSテレビは2010年9月22日、地上波の連続ドラマを毎回放送前に有料で配信する新たなサービスを始めると発表した。動画配信サービス「TBSオンデマンド」を通じて提供する。連続ドラマを毎回放送前に有料で配信するのは日本初という。

 今回、先行有料配信するのは、2010年10月から金曜深夜に新設されるドラマ枠「Friday Break」の第1弾「クローン ベイビー」。放送3日前の火曜日24時から配信する予定だ。配信先は、ジュピターテレコム(J:COM)が運営する動画配信サービス「J:COM オン デマンド」限定となる。

 民放キー局による放送前動画配信サービスとして、「ネット試写会」形式の試みはこれまでもあった。プロモーションを目的として、配信数を限定する形で新作ドラマの初回のみを無料配信するというものだ。今回のように、連続ドラマを毎回放送前に有料で配信するのは日本では例がないとしている。利用料金は各話210円(全11話)。配信期間は168時間である。

 TBSテレビは今回の試みを、配信先をJ:COM オン デマンドに限定した実験的なプロジェクトと位置づけている。先行有料配信を通じて、番組の活性化や宣伝効果の波及、さらに先行有料配信の事業性についての検証につなげたい考えだ。

「事業性」と「プロモーション効果」の両面から

 9月22日には、TBSテレビの伊與田英徳チーフプロデューサー、メディアビジネス局ペイテレビ事業部の田澤保之担当部長、ジュピターテレコムのメディア事業部門 放送・制作本部長 小早川浩氏が出席して説明会を行った。

 伊與田氏は、「新しい才能は深夜から生まれてくる。深夜を活性化させることで、ドラマを活性できる」と、「Friday Break」というワクを立ち上げた背景を説明した。実際に出演する役者は新人ばかりであり、脚本も第1回TBS連ドラ・シナリオ大賞ファイナリストが担当する。

 新しいことに積極的にチャレンジするという考えで臨んでおり、例えば主要キャストをオーディションで選抜し、その模様を「Ustream」で完全生中継した。先行配信もその一環である。伊與田氏は個人的な考えと前置きしたうえで「新しい形の試写会だと思っている」と述べた。自信のあるものを先行して見てもらい、感想をいろいろなところに書き込んでもらうなど、口コミで広がればと期待を述べた。

 田澤氏は動画配信について、「事業性」と「プロモーション効果」の二つの観点から説明した。事業性については、TBSオンデマンドが2009年度で黒字化を達成しており、今後はさらにその可能性を追求したいという。その一方で、「走り続けて気がついたことなのだが、新しい試みを行うことが発信力/話題性につながる。常に新しいことに取り組むことでこのプロモーション効果を最大化し、TBSオンデマンドのブランドにしたいと考えている」と説明した。

 今回の取り組みは、伊與田氏の「若手の主演者/スタッフの活躍の場をつくりたい。ぜひ成功させたい」という思いと、プロモーション効果を結びつけることで、次の時代を作れるのではないか、と考えたのがスタートだったと解説した。その上で、事業性の検証にもつなげたい、と述べた。

 J:COMの小早川氏は、「VOD(ビデオ・オンデマンド)と放送の間を視聴者が行き来できるようなシナジー効果を生むことを目指す」「我々のVODは中高年層が中心。今回の作品は若年層をターゲットにしており、新たなユーザー層の開拓につながる」などと期待を述べた。

先行配信は「二次利用」

 質疑応答での話題は以下の通り。料金設定については、TBSオンデマンドでは「基本的に税別で1時間ドラマが300円、30分ドラマが200円で提供しており、これにそろえた」(田澤氏)と回答した。

 パートナーとしてJ:COMを選んだ理由については、「今回は先駆的・実験的な取組みであり、トライアルという意味で限定的な取り組みである。J:COMとはTBSが動画配信を始めたときからのパートナーであり、密にコミュニケーションをとり続けてきたという経緯がある。また、J:COMは、J:COMマガジンなどの自社媒体において視聴者への訴求力があると評価した」と田澤氏は述べた。

 先行配信を行う場合の地上波ビジネスへの影響については、「これまで見逃し配信を行ってきた実感から言っても、地上波の視聴率に致命的なインパクトを与えることはなく、事業性としての可能性は高い」(田澤氏)と、オンデマンド事業への期待を述べた。また伊與田氏は「オンタイムで見てもらうために、付加価値を高めるよう工夫していく。放送する内容は同じだが、Ustreamを使って出演者と一緒にオンエアを視聴するといったことを行う」と、新しい仕掛けを考えていることを説明した。

 先行配信についても二次利用という解釈でいいのか、という質問に対しては、「われわれの認識はそうだ」(田澤氏)と回答した。さらに、権利処理などの詳細についての質問に対し、「今回の趣旨を理解していただいた上で許諾をいただいた」(田澤氏)と語ったが、詳細は公表しなかった。

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