総務省は2010年9月3日、VHF帯ハイバンドを利用する全国向け「携帯端末向けマルチメディア放送」の特定基地局の開設計画に係る公開説明会を開催した。今回は、いわゆる「事項諮問」された電波監理審議会からの要請に基づくもので、電波監理審議会の委員も傍聴した。申請者であるメディアフロージャパン企画(MJP)と、マルチメディア放送(mmbi)が出席した。両社による簡単なプレゼンのあと、互いに相手に対して質問をするという形式がとられた。

 総務省主催による全国向け「携帯端末向けマルチメディア放送」の公開説明会は3回目に当たる。しかも第2回では、互いに質問をするという形態をエンドレスで行ったこともあり、議論のテーマはほぼ出尽くしている。こうした中、MJP側は、mmbi側のシミュレーション精度に対し、疑問を示した。さらに、低速移動時における受信品質を取り上げた。

<ビル陰は数kmなのか、数十mなのか>
 シミュレーション精度に関連してMJPは、自ら行ったmmbiの計画に基づくシミュレーション結果を示し、全く違う結果になると述べた。自らのシミュレーションは実測結果と合致していると主張し、mmbiのシミュレーション精度に疑問を投げかけた。

 その上で、mmbi側に対し、「地上1.5mでの実測を行ったのか」「どの程度の距離で行ったのか」「地上デジタル放送向けのシミュレーションツールには建物の高さに関する情報が含まれていないのではないか」など質問を行った。

 これに対して、mmbi側は「我々は大規模局を設置する。エリアの端ではなく内側部分は強い電界が確保されており、通常の高さの建物は余裕がある。実測データの量で精度は図れない」とした。「ただし200mを超えるビルは、レートレイシングにシミュレーションなどを用いて個別に評価を行った。その結果、ビルの遮蔽による影響はほとんど発生しない。仮に発生しても数十m程度である。安価なギャップフィラーで対応できる」などと主張した。

 さらに、「東京タワーを使うデジタルラジオの実用化試験放送は、確かにビル陰ができる。しかし、スカイツリーはアンテナ高は2倍以上の530m程度であり、ビルの裏側についても高い電界強度が得られる」と述べた。

 これに対し、MJP側は「都庁だとビル陰は7kmくらいになる。横浜のランドマークタワーは32km程度になる」と指摘した。mmbi側は、「都内の200mクラスのビルは全て検証した。問題はない。横浜については確かに若干ビル陰は発生するが、我々も当然それを認識しており、局を別に用意することになっている」と述べるなど、互いに譲らずに主張は平行線だった。

 MJP側は「電波監理審議会の話しになるのかもしれないが、例えば第三者機関などできちっと評価した方がいいのではないかと感じている。少なくとも、我々は定量的に説明をしてもらえたとは考えていない」と述べた。

<歩行時の受信性能をめぐり激突>
 MJP側は、低速移動環境における受信品質の問題を取り上げた。mmbiは、「ワンセグについてNTTドコモで各種調査をしているが、歩きながら利用している人はほとんどいない」と指摘した。さらにKDDIのホームページから抜粋したパネルを用意し、「ワンセグを歩きながら視聴しないでください。交通事故の原因になる」と注意を促がしているではないか、と指摘した。

 その上で、「確かに、1セグ受信の場合は低速移動時に受信品質は劣化するが、6dBではなく3dB程度である。もともとそれ以上のマージンを確保してあり全く問題はない」と主張した。この点について、MJP側は、数値の違いについては「ちゃんと公平に実験をして、数値を正確に出すことが必要」と述べた。

<想定普及台数をめぐるやりとり>
 一方、mmbi側は、MJPのいう想定普及台数について、「NTTドコモはMJPの開設計画の事業性の低さから、国内市場でも実績が証明されない限り対応の考えはない」としており、対応端末数が開設計画の数字から大きく乖離するのではないか、と問うた。

 これに対してはMJPは、今後スマートフォンやSIMフリー端末が増加していく中で、事業者の端末支配力がどこまで及ぶのかと疑問を示したうで、「そもそもNTTドコモは全体のマーケットで50%程度のシェアを持つ。市場支配力という意味ではドミナントの事業者である。最終的には技術方式を選択することになる審査の途中段階で、自社の競合する技術方式に対応しないと言及することはどういうことなのか。ドミナントであるNTTドコモの採用するのみが一つの方式になってしまうのであれば、公正競争上問題がある」などと述べた。

 こうした指摘に対しNTTドコモは、説明会のあとのカコミ取材で、「リスクが高くてうまく立ち上がらないかもしれない技術を端末に搭載して端末価格を高めることは、結局はユーザーがそのコストを支払うことになり、いいことえはない。(仮にMJPが受託放送事業者になった場合にMediaFLO対応端末の投入は)状況を見ながら対応を決めていきたい」と述べた。

 説明会後のカコミ取材では、このほかNTTドコモ代表取締役副社長の辻村清行氏は、「我々は我々で、キチっと事業を運営していくために必要なシミュレーションをし、エリア設計をして実測を行ってきた。そろそろ決めていただきたい」と述べた。

 KDDI代表取締役社長の小野寺正氏は、このマルチメディア放送について「我々はLTE導入の準備を進めているが、モバイルブロードバンドの利用が進んだときに今のシステムだけで収容できるのだろうか。一斉同報でいろんなコンテンツを流せれば、トラヒックの逃がすことができる。KDDIから見ても大きな利点である」とした上で、「通信で補完するということでは意味がない」と品質の重要性を強調した。