「クラウドを使うことは、今や企業にとって問題解決の現実解になった。IT技術者こそが、クラウドによる企業の革新をリードする」。マイクロソフトの大場章弘執行役デベロッパー&プラットフォーム統括本部長は「Tech・Ed Japan 2010」の基調講演で、同社のクラウドサービス普及をアピールすると同時に、技術者支援に力を入れる姿勢を強調した(関連記事)。

 大場執行役は基調講演のテーマを三つ挙げた。企業におけるクラウドの導入・活用事例、来年に提供予定の新製品、IT技術者の支援強化である。

 導入事例では、物流会社のバンテックが電子メールサービス「Exchange Online」を10月から利用開始することを発表した。特徴は「Windows Azure」との連携。利用者の認証やID/パスワード管理に、ソフトバンク・テクノロジーがAzure上で開発・提供するID管理サービス「Online Service Gate」を使う。Exchange Onlineを単体で使う場合に比べて、高いセキュリティを確保できたという。

 バンテックのグループで5200人あまりの従業員のうち、約3000人がExcahnge Onlineを利用する。同社は10月に国内の関係会社を再編する計画で、グループ内で混在する電子メールシステムの統一が課題になっていた。グーグルの「Google Apps」と比較した結果、「ビジネスで使う、普段から使い慣れたOfficeなどと親和性が高い」ことが決め手となったという。

 このほか人材派遣のパソナは、プロジェクトの予算と実績を管理するシステムの開発にAzureを採用した。介護サービスのブルーオーシャンシステムが介護業務の記録や日報を管理するシステム、日本電子計算が企業のCP(コマーシャルペーパー)の発行事務をクラウド上で代行するサービス「CP Communicator」を、それぞれAzureで開発する。

写真1●データ配信サービス「Dallas(開発コード名)」の概要
写真1●データ配信サービス「Dallas(開発コード名)」の概要
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 二つめのテーマである来年提供予定の製品・サービスとして、大場執行役はまず「Dallas(開発コード名)」を紹介した(写真1)。Dallasは「様々なデータをクラウドで販売するビジネスを動かすための、マイクロソフトが運営するマーケットプレース」(大場執行役)。

 現在Dallasはテクノロジープレビューと呼ぶ限定公開の状態にある。NASA(米航空宇宙局)がDallasを試験利用中で、三次元画像を使った火星の情報検索アプリケーションなどを公開している。

写真2●「Internet Explorer 9」の強化点
写真2●「Internet Explorer 9」の強化点
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 このほか、Windows Azureを使った大規模並列計算サービスや次期Webブラウザーの「Internet Explorer 9」、次期スマートフォンの「Windows Phone 7」、テンプレートを使ったアプリケーション開発機能「Visual Studio LightSwitch」を紹介した。

 IE9は米国時間の9月15日にベータ版を公開予定。最大の特徴はHTML5の実装だ。HTML標準への準拠度合いを診断するサービス「ACID3」では、現時点で95点を獲得したという。JavaScriptエンジンも刷新し、マルチコア処理を可能にするなど高速化を図った(写真2)。

写真3●「Visual Studio LightSwitch」の開発画面
写真3●「Visual Studio LightSwitch」の開発画面
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 Visual Studio LightSwitchは、「スイッチを入れたらすぐにアプリケーションができあがるように、テンプレートを使ってコードをほとんど書かずにアプリケーションを開発するツール」(大場執行役)である。入力フォームを中心にした基本的なアプリケーションを作る用途が主体。入力するデータの種類やデータ形式の定義、テンプレートを使った画面レイアウトの定義という二段階の作業で、アプリケーションを開発できるという(写真3)。

 最後のテーマがIT技術者支援の強化だ。Azureの技術者コミュニティを、明日(8月26日)正式に発足させる。さらに「スパルタ的にクラウドのスキルを育成する『道場』、本社のシニアアーキテクトとの交流」(大場執行役)などを予定。技術情報についても、クラウドサービス向けのサンプルコードを、今後2年で200本追加するなど、充実を図るとしている(関連記事)。

■変更履歴
第5段落に「ブルーオーシャンシステムズ」との表記がありましたが、正しくは「ブルーオーシャンシステム」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2010/08/31 13:45]