総務省は2010年8月23日、2015年までに全世帯でブロードバンドサービスが利用できるようにする「光の道」構想について、非公開の事業者ヒアリングを実施した。ヒアリングに自らが出席した孫正義社長は、ヒアリング後に、「月額1400円で光アクセスを提供できるという試算が根底から間違っているなら、我々の案は頭を丸めて引っ込めると、ヒアリングでの質問に答えた」と話した。

 今回のヒアリングは、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」と「過去の競争政策のレビュー部会・電気通信市場の環境変化への対応検討部会」の2部会合同で開かれたもの。ヒアリング順に、ケイ・オプティコム、ジュピターテレコム、イー・アクセス、KDDI、ソフトバンク、NTTの6社が参加した。

 各事業者は入れ替わり会議室に入り、事前に提出した「光の道」構想の実現に向けた資料に沿って構成員の質問に答えた。ケイ・オプティコム、ジュピターテレコム、イー・アクセス、KDDIの4社の持ち時間は20分だったのに対し、ソフトバンクとNTTの2社は休憩を挟んでそれぞれ45分間と、他事業者の2倍以上の時間が割かれた。会合は非公開とされ傍聴はできなかったが、参加した各事業者幹部や構成員への取材によれば、今回新たに公開された情報はほとんどなかった模様だ。

 ヒアリングではまず、各社が意見提出した「光の道」構想に関するパブリックコメントに沿ってプレゼンを実施(関連記事)。構成員からの質問は、「なんらかの方向性を定めようという議論ではなく、これまでのヒアリングと同様に幅広い意見が出た」(ヒアリングに出席したある事業者幹部)という。

平行線たどるソフトバンクとNTTの主張

 ソフトバンクは、ヒアリングに孫正義社長自ら出席し、(1)メタルアクセスを全廃し同時に光アクセスを敷設することで保守コストを削減、(2)光アクセスは月額1400円で提供可能、(3)NTTのアクセス部門を分社化すべき、という主張を繰り返したという(関連記事)。

 ヒアリング後の囲み取材に応じた孫社長は「構成員からは、本当に光アクセスを1400円で提供できるのか、田舎にも光が本当に必要なのか、分社化した会社の上場を維持できるのか、といった質問が出た。私はすべての質問に答えたつもりだ」と応えた。

 「月額1400円で光アクセスを提供可能」という同社の試算については以前から、一部の構成員が疑問の声を挙げている。この点について、今回も同様の質問を受けた孫社長は、「我々の試算はNTTが情報を開示している範囲での話。一部NTTが公開していない情報がある。仮に我々の考えが間違ったとしても、大筋で正しいのであれば実のある議論になるのではないかと答えた」と話した。

 一方のNTTは、鵜浦博夫代表取締役副社長が参加した。鵜浦副社長もヒアリング後に、「これまでの主張をもう一度繰り返した。新しいことを申し上げたつもりはない」と話した。構成員からは主に、(1)ソフトバンクの試算について、(2)ブロードバンドの普及について、質問されたという。

 ソフトバンクの試算については、これまで通り「光化によって保守コストがぐっと落ちることは常識的にあり得ない。新たに情報を開示するまでもない。試算するのは勝手だが実態に合っていない。我々はこの議論で白黒を付けようとは思っていない」と一蹴した。

 孫社長が「当事者同士が直接、時間無制限で議論すべき」とNTTグループに呼びかけていることについては、「議論はここ(総務省)でやるべき。空中戦のような議論をする意味はない」(鵜浦副社長)と話した。

 なおICTタスクフォースは、NTTグループに対して8月末までにメタル回線を光回線に切り替える移行計画を提出するよう求めている。この点について鵜浦副社長は、「これまでの考え方を改めて申し上げるつもり」として、メタルから光への需要対応に応じて進めるという従来同様の方針を示した。この秋に予定するPSTNの概括的展望の中間報告を含めるかもしれないとしており、新たな情報はほとんど明らかにしない見込みだ。

 ICTタスクフォースの合同部会は8月31日に開く会合において、具体的な行動スケジュールをまとめた工程表を含む「『光の道』戦略大綱」についてまとめる計画だとしている。