図1●写真1●iPad対応の通販カタログを持つニッセンの佐村信哉社長
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図2●写真2●ベストスタイリングコンテスト2010では100人の消費者がニッセンの衣料品や小物で着飾ってランウェイを歩いた
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 カタログ通販大手のニッセン(京都市)は2010年9月初旬から、米AppleのiPadに対応したカタログ「スマートカタログ」の配信を開始する。さらに10月初旬には、ニッセンが販売する様々な衣料品のコーディネートをiPad上で着せ替え人形のように楽しめるアプリケーションの配信も始める。ニッセンは8月21日に東京・青山で同社主催のファッションショー「ベストスタイリングコンテスト2010」を開催したが、その会場でニッセンの佐村信哉代表取締役社長(写真1)が明かした。

 同コンテストにはニッセンの衣料品に身を包んだ一般の若い女性100人が登場。ニッセンのCMタレントである香里奈さんと一緒にランウェイを練り歩いた(写真2)。このイベントは40周年を迎えたニッセンの新しいブランド戦略の一環だが、この会場で佐村社長はニッセンのカタログがiPadにも対応することを説明している。

 ショーの前に日経情報ストラテジーの取材に応じた佐村社長は「iPad対応カタログやベストスタイリングコンテストを通して、新しいニッセンをアピールしたい」と強調。ニッセンがブランド再構築を進めるための具体的な施策の1つとして、iPad対応のカタログ配信を位置づけた。

iPadの重さは総合カタログの半分

 9月初旬に配信を始めるスマートカタログは、8月中旬から既に配布を始めている最新版の秋の総合カタログに掲載された(インテリアを除く)衣料品ページをすべて網羅する。それでいて、1kg以上ある総合カタログとiPadの重さを比べてみるとiPadは約半分、厚さは3分の1ほどになる。

 通常、顧客の自宅には総合カタログとは別に専門カタログも一緒に同梱されてくるが、それらを合わせると重さは実に数kg、厚さもさらに増すことになる。今後専門カタログも順次iPadに対応させて、iPad上にニッセンのカタログを並べた本棚を用意したい考えなので、「iPad片手にベッドに寝転がりながらいろいろなスマートカタログを見たり、外出先や移動中でもiPadで商品を見られたりするようになる」(坂井敦史マーケティング本部CRM推進部長)。これまでの重くて分厚いカタログでは現実的にあり得なかった買い物シーンを新たに創出できることをニッセンは期待している。

 iPadは画像を拡大することも容易なので、カタログに掲載した商品写真やスペック情報を大きくして細かいところまで確認できるというメリットもある。これは紙のカタログではできないことだ。実際に見比べてみても、iPadのほうが衣料品の細かな仕立てや飾りを確認しやすいことが分かる。ニッセンはiPadの画質の高さを評価しており、紙で同程度の質感を表現しようとすると、紙がもっと厚くなるうえにコストも膨らむという。

 スマートカタログで買い物する場合は、まず商品を自由に選択して気に入った物をどんどん「マイリスト(買い物かご)」に入れていってもらう。カタログで例えると、気になるページに付せんを張るイメージだ。マイリストの下には合計金額が表示されるので、予算オーバーであれば買わない物はリストから外せばよい。

 商品スペックとともに現在の在庫情報を確認できるのが紙のカタログには無い機能だ。在庫確認を選ぶとiPadがニッセンのサーバーと通信して、現在の在庫状況を知らせてくれる。気に入った商品の在庫があって買おうと決まれば、あとは決済になる。そこから先はiPadのアプリケーションを離れて、ニッセンのネットサイトのほうで決済処理を実行することになる。ニッセン全体では2010年上期に既に売上高の約半分がネット注文になっていることもあり、ニッセンはiPadに大きな期待を寄せている。

 もっとも、ニッセンとしては「紙のカタログを見て商品を選び、そのうえで当社のコールセンターにご注文のお電話をいただくのと同じように、iPadカタログを片手にコールセンターにお電話いただくような買い物スタイルも想定している。iPadのマイリストは気に入った商品のメモ機能として使ってもらっても構わない」(坂井部長)。

iPadならタイムサービスも自由自在

 価格を柔軟に変えていけるのも紙のカタログではあり得なかったことだ。ニッセンは2010年9月末から10月初旬にもスマートカタログに価格の更新機能を追加する計画で、これによりiPadの顧客だけの値引きやタイムセールスなども企画する方針である。一度印刷してしまったら、有効期限中は価格を変えられない紙のカタログとは全く違ったプロモーション活動が可能になる。

写真3●「ベストスタイリングコンテスト2010」の会場で、iPad対応した衣料品のコーディネートアプリを佐村社長が披露。10月初旬にも配信を開始する
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 同じく10月初旬にはスマートカタログとは別のアプリケーションとして、iPad上で数百点の衣料品のコーディネートを自由に楽しめるソフトの配信も始める(写真3)。マネキンに上着やスカート、パンツなどを着せていって全体のまとまりを確認できるものだ。マネキンを反転させて後姿まで確認できるのは紙カタログではできなかったこと。今回ショーの会場ではそのデモが披露された。気に入ったコーディネートは単品でも丸ごとでも購入することができる。

 ニッセンはiPadの普及に自分たちの通販カタログが大きく貢献できると見ている。年間2億冊のカタログを発送している実績があるからだ。この秋に発行するカタログだけでも約4000万部あり、それがiPad対応に置き換わっていくとすれば、インパクトは大きい。なかでもニッセンは操作が簡単で起動が早いiPadは若い女性や主婦層にこそ向いていると見て、その普及に自社のコンテンツを活用していく。