2011年4月開始予定のNGNによるIPv6インターネット接続サービスを阻害しかねない大きな問題が浮上してきた。IPv6接続方式には「トンネル方式」と「ネイティブ方式」の2方式がある(関連記事1関連記事2関連記事3)。そのうちの「ネイティブ方式」のユーザーに対し、数百円程度の月額料金を新たに課金する方向で検討が進んでいることが、関係者への取材で明らかになった。

 ネイティブ方式は、NGNが直接IPv6パケットを転送する方式。NGNから外部のインターネットに出る場合、3社のネイティブ接続事業者を経由する仕組みとなっている。ネイティブ接続事業者は、BBIX、日本インターネットエクスチェンジ(JPIX)、インターネットマルチフィードの3社が選定されている。

 ネイティブ方式を選択したインターネット接続事業者(ISP)のユーザー同士がNGN上で通信する場合、NGNの網内に閉じた形でIPv6パケットをやり取りすることになる。この機能を「網内折り返し機能」と呼ぶ。これと同等の機能は、既存のBフレッツでも「フレッツ・ドットネット」という月額315円のオプションサービスを契約すれば利用可能である。NGNのネイティブ方式では、この網内折り返し機能は必須であり、ネイティブ方式の利用者は必ず契約しなければならないとNTT東西が説明しているという。

 ネイティブ方式は、ゲートウエイルーターの開発コストなどの初期コストが莫大になる。だが、IPv6パケットの転送などの運用を効率化できるため、ある程度ユーザー数が増えれば料金を低く抑えられると、ネイティブ方式を推す事業者から期待されてきた。ところが、もし月額料金が新たに課金されることになると、ネイティブ方式のそもそもの存在意義に疑問符が付きかねない。

 ネイティブ接続事業者の一社であるBBIXは、「我々のグループのYahoo!BBや、恐らくKDDIでも、最初のルーターで折り返すようになっている。これはIPネットワークの基本機能だ。こうした機能が全ユーザーに対して課金するに値するサービスなのか疑わしい」(同社取締役、渉外本部兼技術本部の福智道一本部長)と、課金に対して疑問を呈する。さらに同氏は、「仮に有料とするならば、その価格を明らかにしてほしい。また、それに値するサービス内容を示すべきだ」と主張する。

 ネイティブ方式を推してきたISPの一社であるNECビッグローブも、もし月額料金がかかるのであれば合理的な説明をしてほしいと言う。「網内折り返し機能はIPネットワークの基本機能であり、現在のNGNで利用できないようにしているのはセキュリティを高めるためと認識している。網内折り返し機能を使えるようにするのは、単に元の状態に戻すだけであり、料金を取るのは納得できない」(同社基盤システム本部の岸川徳幸統括マネージャー)。

 また同氏は、「ユーザー管理などのための初期コストがかかるのは理解できるが、月額料金のような形で課金されるのは理解できない」とも言う。さらに、もし料金がかかる場合は、できるだけ早く情報を公開してほしいと要望する。「一般ユーザーにIPv6サービスをどのようにしていくのか説明しなければならない時期に来ている。そのために、なるべく早めに詳細を明らかにしてほしい」(同氏)。

トンネル方式とのバランスを意識?

 ネイティブ方式のユーザーに追加の月額料金が発生するなら、トンネル方式を採用する事業者にとっては有利になるという見方もある。トンネル方式では、ユーザー宅に「アダプタ」と呼ばれる専用のIPv6宅内ルーターを置く必要がある。以前「アダプタのコストは約3万円」とも言われたことがあり、その費用はユーザー負担となる。このため、ネイティブ方式に比べトンネル方式は不利だという議論があった。こうした観点からすると、ネイティブ方式の網内折り返し機能に課金することは、トンネル方式とネイティブ方式のイコールフッティング(条件の均等化)になってむしろ望ましいという考え方もある。

 この見方に対し、BBIXの福智氏は次のように反論する。「良いところを悪くしてバランスをとるというのはばかげている。あまりトンネル方式との比較は言いたくないが、お互いの良いところを生かした形でユーザーが選択できるようにしないと、国民の利益にはつながらない」。

 また、NECビッグローブの岸川氏は、「バランスをとるためにコストを上乗せするというのは、かえって公正な競争ではなくなる。あくまで、かかったコストを適正に反映すべきだ」と、反論する。

 今後はNTT東西の動きを注視していく必要があるが、その際の論点の一つに、網内折り返し機能に対して新たに料金設定する場合、それが活用業務に当たるかどうかという点がある。もし活用業務に当たると判断されれば、総務大臣への認可申請や一般へのパブリックコメントの募集といった手続きが必要となる。

 こうした手続きを踏めば、料金水準や料金を課すること自体の是非について一般の人が意見を述べられることになる。しかし、その一方でネイティブ方式によるIPv6インターネット接続サービスの遅れも懸念される。

 収束に向かいつつあると思われていたNGNのIPv6インターネット接続だが、また新たな火種をかかえることになりそうだ。