写真1●民主党情報通信議員連盟の事務局長を務める民主党の高井崇志衆議院議員
写真1●民主党情報通信議員連盟の事務局長を務める民主党の高井崇志衆議院議員

 民主党の情報通信議員連盟(議連、関連記事 )は2010年8月3日、現在総務省で検討が進む携帯端末向けマルチメディア放送に関するヒアリングを開催した(写真1)。ヒアリングには総務省、NTTドコモを中心としたマルチメディア放送、KDDIを中心としたメディアフロージャパン企画の3者が参加。民主党の議員の質問に対し、それぞれの立場から回答した。

 携帯端末向けマルチメディア放送を巡っては、ISDB-Tmm技術を推進するNTTドコモを中心としたマルチメディア放送(以下、mmbi)と、MediaFLO技術を推進するKDDIを中心としたメディアフロージャパン企画(以下、MediaFLO)の2社が名乗りを上げ、激しい参入合戦を繰り広げている(関連記事1関連記事2)。過去に総務省主催で公開、非公開合わせて3度のヒアリングを行ってきた。

「電監審で判断できるのか、将来に禍根を残さないのか」

 今回もmmbiとMediaFLOはそれぞれ、「コスト重視」「品質重視」という対照的な計画を主張した。これまでのヒアリングとの違いは、過去3度のヒアリングでは主催者としての立場から司会に徹してきた総務省に対し、民主党の議連が官主導の許認可プロセスに対し異議を唱えた点である。

写真2●総務省情報流通行政局総務課の大橋秀行課長(7月27日付けで異動。前放送政策課長)
写真2●総務省情報流通行政局総務課の大橋秀行課長(7月27日付けで異動。前放送政策課長)

 ヒアリングに参加した民主党の勝又恒一郎衆議院議員は総務省に対し、「なぜ受託事業者の参入枠を1枠にしたのか。これだけ考え方の違う両陣営の優劣を電波監理審議会が判断できるのか。将来に禍根を残すことはないのか」と質問。これについて総務省情報流通行政局総務課の大橋秀行課長(写真2、7月27日付で異動。前放送政策課長)は、「仮に二つの事業者に参入枠を与えると、帯域は二つに分かれ、インフラも全国で二重になる。端末側もどちらか一方の方式でしか視聴できなくなる可能性がある。我々の目的は多様なサービスを多くの人に届けること。そのためにも1枠が最適と判断した」と理由を説明した。

 審議会による判断については、「審議会には諮問・答申をいただくが、評価は我々が下す。我々はプロフェッショナルであり、そのためのスタッフも抱えている。しっかりとした評価を下せるよう準備を進めてきたし、作業も進んでいる」(大橋課長)と自信を見せた。

 この大橋課長の説明に対して、元大蔵省の官僚で民主党の岸本周平衆議院議員は、「納得できない」と異議を唱える。岸本議員は「判断を間違った時に役人は責任を取らない。そこはパラダイムを変えていきたい。既に時間切れだが、この事例は電波オークションをするにはパーフェクトな事例だった。マーケットサイズが小さいので法外な値段になることもない。官僚が恣意的に選ぶのではなく、電波オークションによって選ぶのが正しい経緯だったのでは」という意見を述べた。続けて、「今からでも2社でやってもいいのではないか。競争することで設備投資が増え経済も活性化する」(同)との考えも披露した。

マルチメディア放送自体の事業リスクの高さも課題に

 携帯端末向けマルチメディア放送そのもののビジネスとしての疑念についても質問が飛んだ。議連の事務局長を努める民主党の高井崇志衆議院議員は「携帯端末向けマルチメディア放送は本当にビジネスとして成り立つのか。委託事業(ソフト事業)に参入を希望する事業者からは、1MHz当たり10億円もの金額を受託事業(ハード事業)に払えないという声ももらっている」と質問した。

写真3●NTTドコモの山田隆持社長
写真3●NTTドコモの山田隆持社長
写真4●KDDIの小野寺正社長兼会長
写真4●KDDIの小野寺正社長兼会長

 これに対してmmbi陣営のNTTドコモの山田隆持社長(写真3)は、「総論で言わせていただくと、甘くない事業だ。しかししっかりやれば花開く。そのためにもインフラの部分は効率的に進めなければならない」と、コストを抑えた開設計画を打ち出した同陣営の利点をアピールした。

 MediaFLO陣営のKDDIの小野寺正社長兼会長(写真4)も、「ビジネスとしては非常に難しい。まず考えなければならないのは、放送として考えるのか、放送と通信の融合モデルとして考えるのか。委託と受託の関係をどう整理するのか。それによって大きくビジネスモデルは変わる。委託にベンチャー1社が参入するのは非常に難しいのでは」と回答。受託事業者を決めてから、委託事業者を決めるという総務省の手順に対して疑問を呈した。

 総務省の大橋課長は、「我々もビジネスとして絶対に自信があるわけではない。しかし価値は大いにある。よい条件を整え、放送にパラダイムシフトを起こすことが我々の役目。多様なベンチャーなどにも参画していただき、新しいサービスが出てくることを期待している」と述べた。先に受託事業者を決めてから、委託事業者を決めるという手順に対しては、「我々も悩みながら進めている。これは連立方程式を解くようなもの。我々は委託事業に目を向けている。委託事業に参入するにはいったいいくらのお金でできるのかが分からなければ進められない。まず、その条件を示すことが必要だった」と説明した。

 事務局長の高井議員は「我々の今日の意見は原口総務大臣に伝えたり、政策調査会に反映させていきたい」と話す。もっとも今回のヒアリングは、あくまで議連の勉強会としての位置付けであるため、ただちに政策に反映することは無さそうだ。電波オークションの実施にしても、法改正が必要であるためにすぐの実現は難しい。情報通信分野における民主党議員のアピールの場としての狙いもあったようだ。

 原口大臣は、携帯端末向けマルチメディア放送の受託事業の参入事業者の決定について、8月中にも判断したいという意向を示している。