アカマイは2010年7月22日、電子商取引向けのコンテンツ配信サービス「Akamai ESD for Commerce」の国内提供を始めた。ESD(Electronic Software Delivery)は、大容量ファイルを高速で配信するための技術や管理ツール、クライアント用アプリケーションなどをまとめたコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)サービスの一種で、すでに国内で提供している。今回、ESDに「Client Side Delivery(以下、CSD)」というP2Pを使ったコンテンツ配信機能を追加し、国内の電子商取引向けに提供するのがAkamai ESD for Commerceだ。米国ではCSDも既に提供しているという。

写真1●アカマイの小俣修一社長
写真1●アカマイの小俣修一社長

 アカマイは日本を含む全世界のインターネット接続事業者(ISP)のNOC(Network Operations Center)などに、専用サーバー(以下、アカマイサーバー)を約7万3000台設置している。同社は従来から、アカマイサーバーにコンテンツの複製(キャッシュ)を置くことで高速なCDNサービスを提供してきた。今回の発表はこのアカマイサーバーの仕組みに加えて、エンドユーザーの端末にインストールしたP2P機能を併用することで、さらに配信効率を高めようという試みだ。

 CSDを利用するには、エンドユーザーの端末(パソコンなど)にP2P配信機能を持つプログラムをダウンロードする必要がある。「コンテンツ配信事業者の二ーズに応じて、Webブラウザにアドオンとして組み込むタイプ、独立したアプリケーションとして提供するタイプの両方に対応できる」(アカマイの小俣修一社長、写真1)。

写真2●CSD利用の流れ(初期段階)
写真2●CSD利用の流れ(初期段階)
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 P2P機能をインストールしたユーザーがコンテンツをダウンロードする際には、まずアカマイの「コントロールプレーン」サーバーに接続する。コントロールプレーンはコンテンツが利用可能か確認し、問題がなければダウンロードが始まる。そのコンテンツに一番最初にアクセスしたユーザーは、オリジナルのファイルが保存されているサーバーからコンテンツをダウンロードすることになる(写真2)。

 すでに複数のユーザーがアカマイのCSDを使ってコンテンツをダウンロード済みの場合は動作が異なる。P2P機能によって、CSDを利用している複数のクライアントならびにアカマイのCDNからファイルを高速にダウンロードすることが可能だ。どのクライアント/サーバーからコンテンツをダウンロードするかは、遅延や帯域などを基にコントロールプレーンが判断・通知する(写真3)。

写真3●CSD利用の流れ(複数ユーザーが利用している段階)
写真3●CSD利用の流れ(複数ユーザーが利用している段階)
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 米アカマイ・テクノロジーズのラヴィ・マイラ インダストリー・マーケティング担当バイスプレジデントによると、「クライアントではコンテンツを暗号化して保存している」という。アカマイサーバーを利用した従来のCDNのみを利用した場合と、P2P機能を併用した場合のパフォーマンスの違いについては「あるイベントのライブストリーミングで、最高のビットレートで視聴できるユーザーの割合が(P2Pを併用した場合は)2倍になった例がある。ただし、コンテンツをダウンロード配信するケースについては、紹介できるデータがない」(マイラ氏)とコメントするにとどめた。

 P2Pを利用したコンテンツ配信サービスは、他社も提供している(関連記事1関連記事2 )。これらは一般に、アカマイよりも安価に利用できることを売り物にしている。小俣社長は、「最近ではP2Pトラフィックに対して帯域制御をかけているISPも少なくない。アカマイの場合、ISPのバックボーンではP2Pを使わず、アカマイサーバー同士でコンテンツをやりとりする。そのため、他社のP2Pコンテンツ配信サービスに比べて帯域制御の影響を受けにくいのがメリットだ」と話す。Akamai ESD for Commerceの価格は個別見積もり。

 なお同社は同日、2010年8月1日から社名を「アカマイ株式会社」から「アカマイ・テクノロジーズ合同会社(Akamai Technologies GK)に変更すると発表した。併せて西日本地域への事業拡大を目指し、大阪に西日本支店を設立する。

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