総務省の情報通信審議会 電気通信事業政策部会 接続政策委員会は、2011年度以降の加入電話網(PSTN)接続料算定のあり方について議論を進めており、早ければ7月中にも報告書がまとまる見込みである。2010年7月13日開催の会合では報告書の骨子案について議論が行われ、これまで接続料の算定基準として用いられてきた長期増分費用方式(LRIC方式)の第4次モデルを改良した同第5次モデルを、2011年度以降のPSTN接続料の算定基準として用いることが適当とする方向性が示された。

 PSTN網に接続する側のキャリアの一社であるソフトバンクは、骨子案が示す方向性に対して、接続事業者の負担が増えるとして強く反対している。ソフトバンクテレコム専務取締役専務執行役員兼CTOの弓削哲也氏は、LRIC方式には「非効率排除が前提のLRIC費用が実際費用よりも高くなる逆転現象が起きており、その差額が年間1000億円近くもある状態が続いている」「電話サービスのIP化でPSTNの利用が急速に減少するとみられる今後、LRIC方式のままではスケールメリットが減ることによる接続料水準の上昇が避けられない」、といった問題があると指摘する。ソフトバンクの試算によると、LRIC費用と実際費用の差額の累計は4800億円に上る。また第5次モデルを採用した場合には、2012年以降に接続料水準が過去最高値を更新し続け、かつ同時期からマイライン市内呼の接続料が今のユーザー料金を上回る「逆ざや」状態になるという。

 実際費用とLRIC費用の逆転現象については、接続委員会の場でも検討が行われた。委員会の議論では、「逆転現象は是正すべき」や「LRIC方式の限界について報告書に盛り込むべき」という委員の意見があった一方で、「LRICは算定過程の透明性が高いといった要素も評価できる。減価償却の考え方など同じ土俵にないLRIC方式と実際費用方式の算定結果を比較すること自体が意味のないこと」とする意見もあった。こうした意見に対し弓削CTOは「LRIC方式の透明性が高いことは承知している。しかし、実際費用方式とLRIC方式の年間差額約1000億円が透明性確保のための値段だとしたら、それは高すぎるのではないだろうか」と反論した。

 ソフトバンクは、接続委員会が5月に実施した事業者ヒアリングで、LRIC方式に変わる算定方式を提案している。この算定方式は、PSTNとIP電話によるトラフィックをすべてIP網で提供した場合の効率的コストを用いる「IPハイブリッド方式」と、同じくトラフィックをすべてPSTN網で提供した場合の効率的コストを用いる「PSTN定常方式」の二つからなる。PSTNからIP網への移行期間中は「PSTN定常方式」を用いた後、「IPハイブリッド方式」に移行する。ただしこの考え方では、PSTNとIP網の二つのインフラを維持することによって増すコストを接続事業者は負担しない。そのため骨子案でも「原価に基づく接続料算定の原則に則っていない」という評価にとどまっている。この点に関して弓削CTOは「NTT東西自らの経営方針としてPSTNからIP網への移行を進めているのであって、そこで余分に発生するコストはNTT東西が負担すべき」とした。

 また、「PSTN定常方式」に関して骨子案が「具体的なモデルの構成やロジックなどに関する提案がなく(中略)精緻なIPモデルを直ちに構築することは困難」と指摘している点について、「これは何か新しい方式の検討が必要になるわけではない。LRICの第5次モデルの入力値を、トラフィックすべてをPSTN網で提供したと仮定した際の値に変更すればよい」(弓削CTO)とし、すぐにも適用が可能であるという見方を示した。