写真●日本ヒューレット・パッカード取締役常務執行役員エンタープライズビジネス営業統括の古森茂幹氏(撮影:皆木優子)
写真●日本ヒューレット・パッカード取締役常務執行役員エンタープライズビジネス営業統括の古森茂幹氏(撮影:皆木優子)
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 「HPが手がけるクラウドサービスは、大規模サービスの運用経験が得られる実験場でもある。データセンター、デジタルデバイス、ネットワークのフルポートフォリオに、ここで得たノウハウを反映できるのが強み」。2010年7月16日の「IT Japan 2010」3日目の講演で、日本ヒューレット・パッカード常務執行役員エンタープライズビジネス営業統括の古森茂幹取締役(写真)は、クラウドサービス運用の経験が運用管理コスト低減の鍵を握るとの見解を示した。

 古森取締役は「次世代デジタルワールドへ、HPの挑戦~Everything as a Services へ向けて~」と題した講演の中で、サービスとそのユーザーが爆発的に増えるクラウド時代に向け、米Hewlett-Packardのデータセンター製品、スマートフォンやタブレット型端末などのデジタル端末、それらをつなぐネットワーク製品の大きく3要素に関する取り組みを説明。「堅牢なデータセンターと多様なデジタルデバイス、ネットワーク製品のフルポートフォリオを提供できるのがHP」とし、各要素の強みをアピールした。

 まずデータセンター向けの製品については、サーバー、ネットワーク、ストレージ、電力・冷却、管理ソフトの5つのコンポーネントを別々に選ぶのではなく、垂直統合型のソリューションの活用で規模に応じた導入・運用コストの改善が見込める点を強調。そのうえで「サーバー仮想化の進行などで運用管理のコストは増え続ける一方。そこでHPのソフトウエア製品の開発は、IT基盤の運用自動化に関する分野に特化する」(古森氏)という。

 続いてデジタル端末について、企業と家庭とを問わず「PDAやタッチスクリーン端末、デザイナーズブランドのノートPCなどデジタルデバイスへの投資を継続する」と宣言。今のところ、一見普通のホームサーバー製品である「HP MediaSmart Server」は、「スマートグリッドのスマートメーターとつながることを視野に入れた戦略製品」と古森氏は位置付ける。

 最後のネットワークについては、ネットワークトポロジのエッジに当たる製品群が中心だったポートフォリオに、米3Comの製品群を2010年7月1日付けで日本HPの販売ラインナップに追加。エッジからコアネットワークまで、すべてのネットワーク製品を揃えられるようになった。

 以上の3要素は、自らが運用するクラウドサービスで実地検証することで、顧客の要求する大規模化のニーズに応えていく。

 古森氏は一例としてオンラインアルバムサービスの「Snapfish」を紹介した。Snapfishは、1年に1回、1枚10円のプリントサービスを利用するだけで容量無制限のオンラインアルバムが使えるサービス。8500万人以上のユーザーが50億枚の写真を預けており、総容量16ペタバイトを三つのデータセンターでまかなう。単体のビジネスとしては「良くはない」(古森取締役)ものの、大規模サービスの運営経験が差異化の要素となるクラウドコンピューティングの文脈では「今の時代に即した実務経験が得られるクラウドの実験場」(同氏)という側面を持つ。

 Snapfishと同様に、HPの社内システムも実験場の一つである。2005年時点で、85超のデータセンターを抱え、IT予算の約7割が社内システムの運用費に消えていた。「IT部門の社員が営業部門の社員より多い状態だった」(古森取締役)。これをサーバー集約で40%減らしつつ性能は2.5倍にアップ。IT予算の約7割を新規投資に回し、営業部門の社員をIT部門の社員の倍の人数に増やした。

 これらの製品群のノウハウをもって、クラウド事業者と企業内クラウド構築の支援、および自社によるクラウドサービスの提供を実施するというのがHPのクラウド戦略。古森氏は「技術や実験で培ったノウハウ、ITアウトソーシング大手の米EDS買収で得たグローバル展開のノウハウ、社会と地球のための基礎研究などの成果をもって、顧客を支援する」と宣言して講演を締めくくった。