成城石井の大久保恒夫代表取締役社長(撮影:皆木優子)
成城石井の大久保恒夫代表取締役社長(撮影:皆木優子)
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 「私は、表面的に財務諸表を良く見せるような手は打たない。経費を削らない、人を減らさない、ディスカウント(割引)に走らない、この3つを徹底したら、成城石井の業績は自然と良くなった」

 首都圏や関西圏の都市部で食品スーパーを展開する成城石井(横浜市)の大久保恒夫代表取締役社長は2010年7月16日、「IT Japan 2010」の講演でこう強調した。『日経情報ストラテジー』の連載コラム「10分間で学べる業務革新講座」と連動し(関連記事)、「改革と情報システムは二人三脚~情報を活かす経営」と題して講演した。

 大久保社長は2007年1月に業績が伸び悩んでいた老舗食品スーパーの成城石井社長に就任した。その後リーマンショックなどで景気が不安定になったが、成城石井は年々売上高や利益水準を高め、「日本の食品スーパーではトップレベルの営業利益率」(大久保社長)を上げるようになった。

私がやらない3つのこと

 この秘けつとして、大久保社長は3つの“やらないこと”を挙げた。「経費を削ったら、目先の利益が増えるだけで価値創造にはつながらない。人を減らさなくても、マネジメントの仕組みさえきちんと作れば人は変わるし、どんどん成長する。ディスカウントしても需要の先食いになるだけだ」とした。

 特に流通業全体がディスカウント競争に走る傾向に疑問を示した。「食品スーパーのお客様の約8割は固定客。例えば、しょうゆの特売を実施すれば、一時的にはお客様がまとめ買いしてしょうゆが売れるが、安いからと言って、料理にしょうゆをたくさんかけるはずがない。しょうゆを切らせて次に買いに来る時期が先延ばしになるだけで、店にとって利益が減るだけの結果に終わる」と話した。「最近、格安のプライベートブランド(PB)商品がもてはやされているが、これも同じことだ。PB商品自体の売上高は増えても、そのカテゴリー全体の売上高は割引した分減ってしまう」と強調した。

 「それよりも、価格は高いがこだわりのある“丸大豆しょうゆ”を売ったほうがいい。お客様がおいしさの価値を認めてくれれば、高いからと言って買う数を減らすことはないはずだ。むしろ、おいしいなら料理にしょうゆならたくさんかけてくれるかもしれない」と言って会場の笑いを誘った。

 もちろん、同じ商品を競合店よりも高い価格で売るのでは客足が遠のく。「日本中を探せば、大手メーカーではなくても、こだわりのあるおいしい食品を作っているいいメーカーがたくさんある。大量生産ではないから、価格はちょっと高い。だからなるべく直取引にして価格を下げるようにしている」と説明した。一般には高級イメージがある成城石井だが、「お客様からは、デパ地下(百貨店の地下食品売り場)などに比べておいしい物が安く買えると言ってもらえる」という。