写真●日本IBMの椎木茂 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング&システムインテグレーション統括
写真●日本IBMの椎木茂 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング&システムインテグレーション統括
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 「日本企業が生き残るためには本社を日本に置くことに固執せず、世界を一つとして考える企業モデルに革新すべきだ」。日本IBMの椎木茂 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング&システムインテグレーション統括(写真)は2010年7月15日、「IT Japan 2010」に登壇し、「グローバル化が加速する中で日本企業が生き残る道」と題して講演した。

 椎木専務が日本企業のグローバル化を訴える背景には、「日本経済が非常に厳しい」という現実がある。「世界における日本の経済地位はこの10年で3位から17位に後退した。内需拡大も限界に来ている。海外投資が進む一方で日本国内投資はマイナス傾向にある」(椎木専務)。

 アジアでの日本の立ち位置も低下しているという。「2007年ころは、日本はアジア地域の中核拠点であり研究開発拠点、バックオフィスであると認められていた。だが、それらすべての地位を中国に奪われた」(同)。

 さらにグローバル人材も不足しているという。「科学・工学系の博士号の取得者は日本が7700人で米国は2万8000人。こうした数字だけでなく、IBMというグローバル企業でひしひしと感じるの教育の差」と椎木専務は話す。「グローバル人材を育成するのに必要なのは英語教育ではなく、リーダー育成。かけっこをやっても『一緒に一位のテープを切りましょう』と教育されてきた日本と、ディベートで自分の意見を主張しそれを実践する教育を受けてきた欧米では明らかに差がある」。椎木専務は暗に、現状の日本教育ではグローバルリーダーの育成が難しいとした。

 八方ふさがりのなか、日本企業はどうすれば生き残れるのか。椎木専務は「グローバルでワンカンパニーととらえること」を挙げる。「法人税率や労働コストが高く、国際経済の中で魅力を失いつつある日本に本社を置くことから脱却すべきだ。ビジネスモデルのイノベーションがなければ、日本企業の競争力は落ちていく」(椎木専務)。

 日本企業がグローバルでワンカンパニーとなるためには変革が必要で、その柱は三つあるという。グローバルの製品戦略を立てることと、リアルタイムな経営、グローバルな人材育成だ。「日本企業は品質を上げれば売れると考えているが、地域ごとに必要なサービスレベルは何かを考えて差をつけなければいけない。経営も過去のデータを分析して未来を予測するように変えなければいけない。海外の人材をトップに据える日本企業も出てきたが、ミドル層もグローバル人材をもっと招かなくてはいけない」(同)。

 こうした変革の先にある「グローバルで統一された企業(グローバル・インテグレーテッド・エンタープライズ:GIE)」が今のIBMであるという。「GIEにおいては本社や工場、企業の各機能を担う部署は、最も適した地域にあればいい」(椎木専務)。こうした最適な地域への配置を可能にするため、IBMはITを駆使してグローバルで統一されたシステムを作り上げてきたという。「ワンセンター、ワンインスタンス、ワンシステムだからこそ、経営判断が迅速になり、ビジネスモデルを変えてインドや中国にも迅速に進出できた」(同)。

 IBMは、1990年代はGIEではなかったという。「1990年代はサプライチェーンは地域ごとに構築していて、調達は全世界300カ所で実施していた。販売や経理、人事といった各部門も地域ごとにあった」(椎木専務)。現在ではそれらの仕組みをグローバルで一つないしは少数に統一。IBM全体で40万人分の事務処理は、それを得意とする地域の大規模なセンターで実行しているという。

 経営管理の仕組みは、3軸の「キューブ型グローバルマトリクス」で進めているという。3軸とは、通信、流通、製造といった営業的な立場での切り口である「顧客/産業軸」、サーバーやソフトウエアといった製品・サービスの切り口である「事業軸」、それと「地域軸」である。「それぞれの軸でIBMの状況を把握するとともに、軸同士を掛け合わせて浮かんでくる顧客の課題を分析するようにしている」(同)。キューブ型グローバルマトリクスについて椎木専務は「世界を統合する新しい考え方としては良い仕組みだが、実践するのは大変」とする。IBMは現在もマトリクスのブラッシュアップを続けているという。

 椎木専務は講演の最後に「国内だけでなく海外を一体として考えることで日本企業は生き残れる」と改めて強調。「IBMはグローバルで統一されたサービスプロバイダとして顧客のグローバル化に貢献できる」と結んだ。