写真●セコム取締役会長の木村昌平氏(撮影:皆木優子)
写真●セコムの木村昌平取締役会長
(撮影:皆木優子)
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 「ITは産業の創造的破壊をうながした。そこから新たな企業価値を創造するのもITだ」--。セコムの木村昌平会長はこう断言する。2010年7月14日から16日にかけて東京・港区で開催されている「IT Japan 2010」において、初日の基調講演に登壇した木村会長が、「ITによる事業革新~セコムの成長戦略~」と題して講演した。セコムにおけるITを活用した事業革新の事例を挙げながら、事業の成功を支えているITの重要性を語った。

 「ITはビジネスモデルを革新する」と前置きしながら木村会長が紹介したのは、セコムの代表事業である警備。1966年には遠隔監視を可能にするオンライン・セキュリティシステムを導入し、常駐警備の人員構成を効率化できた。同時に、「事業の対象市場が一気に4ケタ拡大した」(木村会長)という。「ITで警備のビジネスモデルが大きく変わった」(同)のだ。

 木村会長は「ITは新しい事業を創出する」とも述べた。セコムでの例として、1994年に開始した遠隔医療支援サービス「ホスピネット」とモバイル・セキュリティシステムの「ココセコム」を取り上げる。ホスピネットは遠隔地同士の画像診断を支援するサービス。医療機器のMRI(磁気共鳴画像装置)でスキャンした患者の画像を、ネットワーク経由で専門医に転送する。木村会長によれば、「ITを使った新サービスにより、患者の『待ち』が解消。病院の稼働率も大幅に向上した」という。

 一方のココセコムは、GPS(全地球測位システム)と携帯電話機能を活用した位置検索サービスだ。「盗難車両の位置把握、認知症患者の保護などで大きな効果を上げている」と木村会長は説明する。

 既存業務の効率化にもITは貢献している。木村会長は画像認識技術を適用したオンライン監視システム「AXシステム」を例示した。AXシステムでは、警備用カメラに写った画像を解析する技術を採用。これにより、従来必要だった監視センサーの数を10分の1から50分の1にまで減らせたとしている。

 IT導入により、種々の事業革新を進めてきたセコムにおいて一貫しているのは、「不安のない社会の実現」というビジョンの存在である。そのビジョンに加えて、木村会長は、その根底に流れる「哲学」の重要性を強調した。事業成功の秘けつは、「ITを使った創造的破壊に加えて、哲学を貫くことだ」と語る。

 木村会長は、「企業は社会に高い価値をもたらすことで利潤を生む。その価値は『社会的価値』『経済的価値』『人間的価値』の側面から説明できる。それらを支える根っこは『哲学』だ。哲学があってこそ、企業は社会との良好な関係性を維持し、社会に価値を提供し続けることができる」と説く。

木村会長が紹介した「事業の憲法」の抜粋
木村会長が紹介した「事業の憲法」の抜粋
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 セコムの哲学を表現したものの一例が、「セコムの事業と運営の憲法」だ()。木村会長は「哲学を表現した憲法があってこそ、事業を広げても軸がぶれず、適切な運営が可能になる」とする。

 「ITを使いこなすのは大切なこと。だが、それを使ってどうするかは人の意識にかかっている」。木村会長はこう述べながら、ITを生かす哲学の重要性を繰り返し強調した。