写真●日本ユニシス 常務執行役員ICTサービス部門副部門長 岡部長栄氏
写真●日本ユニシス 常務執行役員ICTサービス部門副部門長 岡部長栄氏
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 「クラウドの注目期は終わった。課題を克服する沈黙期に入っている」。2010年6月29日に開催された「エンタープライズクラウドフォーラム」で、日本ユニシスの岡部長栄氏(常務執行役員ICTサービス部門副部門長、写真)はこう指摘した。日本ユニシスは約2年前からクラウドサービスに本格参入しており、多くの業務システムをクラウド化してきた経験を持つ。

 岡部氏は冒頭、調査会社The 451 Groupが2010年2月に発表した調査結果を紹介。それによると、IaaS(Infrastructure as a Service)の市場は米国が世界の約93%を占め、欧州が約6%、日本を含むアジアでは約1%だという。日本でも身近なところで活用事例を耳にするようになってはきたが、米国ではアジア全体の100倍近くクラウドが利用されていることになる。

 「IT活用の流れを見ると米国の流れは日本の流れの先行指標だった。メインフレームからインターネットの活用まで、すべてが米国で始まり、何年か遅れて日本にも同じ動きが起きた。従って日本もクラウド化に進むことは必須だ。さらに、クラウドに必要な回線インフラは、日本が世界で最も進んでいる。これまで米国のIT活用をキャッチアップしてきたスピードよりも、さらに速いペースで、今93倍離れている差を縮めていくと考えている」(岡部氏)。

 その動きの一環として、岡部氏は政府の動きに言及。特に、自治体・教育・医療分野はクラウドの重点分野として数々の施策が動き出しているという。

 自治体分野では年間4000億円というITコストが費やされているが、韓国では同じような仕組みをわずか161億円で実現している。日本でも徹底的な“割り勘効果”によるコスト効果を狙い、今年度から3カ所で自治体クラウドの実証実験が始まっている。「そのうちの一つである、佐賀県の自治体クラウドに日本ユニシスのシステム基盤が採用され、実験に参加している」(岡部氏)という。

 教育分野では、今年度からフューチャースクールの実証実験が、全国10校の小学校で開始される。教育コンテンツのクラウド化や生徒・先生・家庭を結ぶ教育クラウドが動き出し、2020年までに2万2000校の小学校、1万校の中学校、3900の高校のすべてが教育クラウドのもと、新しい教育を開始するという計画が原口ビジョンの中で語られている。

 医療機関については、2月に法改正が行われ、患者の診療データを民間のデータセンターに保管することが認められるようになった。「医療クラウドの法的基盤が整備されたと言える」(岡部氏)。

 もちろん、民間企業の取り組みも活発だ。日本ユニシスでは、個人ユーザー向けのクラウドに対して、企業向けに最適化されたクラウドを「エンタープライズクラウド」と定義している。セキュリティ、サービス、サポートなどの各レベルを個人利用よりも高い品質で実現する。

 クラウド利用に向いているシステムとして、「短期間だけ運用するシステムや実証実験システム」、「データ量や処理の負荷の変動が大きいシステム」、「バージョンアップなど保守に手間がかかるシステム」、「安定した運用が必要なシステム」などがあり得る。「現在利用されているほとんどのシステムが、いずれかに当てはまるのではないか」(岡部氏)。

 逆に、ずっと所有しておくのが望ましいシステムとはどのようなものか。それは「どうしても自社ですべて所有したいシステム」で、それは、技術の進展やサービスコストの変化、社会環境の変化などによって変わってくる。「何からクラウド化しようかではなく、現時点では何を自社に残しておこうかと考えることも必要だ」と岡部氏は指摘した。