写真●日立製作所 プラットフォームソリューション事業部 クラウド事業推進部 担当部長 小川秀樹氏
写真●日立製作所 プラットフォームソリューション事業部 クラウド事業推進部 担当部長 小川秀樹氏
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 「クラウドコンピューティングで、企業内システムをビジネスの変化にあわせて全体最適化できる」---2010年6月29日に開催された「エンタープライズクラウド フォーラム」の講演で、日立製作所 プラットフォームソリューション事業部 クラウド事業推進部 担当部長 小川秀樹氏は、クラウドのインパクトをこう述べた。

 小川氏は、企業内の情報システムは、これまでの個別調達で機能ごとにサーバーが乱立していると指摘する。その結果、運用コストが増大し、リソース配分にムダが生じている。経済産業省の調査によれば、日本企業の56.9%は部門内最適化のステージにあり、組織全体の最適化に進んでいる企業は27.0%にとどまる。これに対し米国では組織全体最適化ステージにある企業は46.6%に達しており、部門内最適化ステージにある企業は35.6%と日本に比べ進んでいる。

 クラウドコンピューティングの導入は、部門最適から全体最適に進むきっかけになる。例えばメールなどのノンコア業務はパブリッククラウドへ移行し、サイロ化した(部門に閉じた)社内システムはプライベートクラウド上で再構築する。

20万人の情報共有基盤をパブリッククラウドで運用

 パブリッククラウドを活用できるシステムの例として、小川氏は(1)情報共有基盤(メールやポータル)、(2)開発環境、(3)災害対応(バックアップ)、(4)新業務のインフラ、を挙げる。日立グループでは既に、20万人が使うメールやスケジュール、電子掲示板、ポータルなどの情報共有基盤をクラウド上で運用している。

 また開発プロジェクトを早期に立ち上げ、開発費用を削減する目的でもクラウドが有効であるという。ある製造業のユーザー企業では、クラウド上に開発環境を設置することで短期間にプロジェクトを立ち上げた。また分散開発により開発スペースの確保が容易になった。

 バックアップもクラウド上で行うことにより、場所を問わず、バックアップ容量の変化にすばやく対応可能になる。

 「新サービスの立ち上げにもクラウドは有効」(小川氏)。ある事務機器メーカーでは、ITシステムの調達申請・承認支援システムにクラウドを利用した。4カ月と想定されていた立ち上げ期間を、クラウド適用により約2カ月に短縮したという。

 さらに、SaaSを利用することによりサービス立ち上げ期間をより短縮できる。例えば日立では、見積もり評価サービスや集中購買サービス、Web-EDI、欧州REACH規制に対応する有害化学物質などの環境情報交換サービスなどをSaaSとして提供している。

プライベートクラウドで1万3000台のサーバーを5000台に削減

 プライベートクラウドでも、ピーク時期の異なるサーバーを組み合わせたほか、同じ機能を持つシステムを統合することでリソース利用率の向上が期待できる。「企業グループ内のリソースを集約することで、コストを削減し、ビジネス上の変化への迅速にできる」(小川氏)とする。

 日立では標準アーキテクチャモデルと標準プロセスツール、必要なハードとソフトをパッケージ化したプラットフォームを提供しており、「より迅速、確実にプライベートクラウドを構築できる」(小川氏)という。

 またクラウド環境下でユーザー間の独立性を確保する技術や、ミッションクリティカルなシステム向けにリソースを占有する技術を提供している。日立グループでもこれらの技術を利用してグループ内のプライベートクラウドを構築。「1万3000台のサーバーを5000台へと削減できた」(小川氏)という。

既存システムとの統合運用がカギに

 小川氏がクラウド導入のポイントとして指摘するのが「既存のシステムを含めたクラウド環境の高効率運用」だ。日立では既存のクラウド環境と既存システムのリソースを統合運用できるツールを提供している。こういったツールの適用により、リソース配分を継続的に最適化していくことがITリソース最適化のカギになると小川氏は指摘した。