「記事を読む限り、日本IBMの金田治副会長の証人尋問での発言は、当を得ていない。スルガ銀行に非があると言いたかったのだろうが、逆に日本IBMが不利な状況であることを露呈した」。JTBの野々垣典男IT企画部長は、こう断言する。

 野々垣部長の言う「記事」とは、スルガ銀行と日本IBMが係争中の裁判における証人尋問について取り上げたものだ。証人尋問は、今年の2月から3月にかけて東京地裁で開かれ、日本IBMからはプロジェクト当時全社の営業責任者を務めていた金田副会長などが出廷した。

 JTBの野々垣部長は、この裁判でスルガ銀行側から鑑定意見書を提出している。その野々垣部長によれば、日本IBMの金田副会長の証人尋問における発言のうち、「日本IBMに有利なようで実は不利」な点は少なくとも二つあるという。

 一つは、「日本IBMが議事録の改変を迫られ、仕方なく変更した」といった趣旨の発言だ。野々垣部長は「議事録の内容は両社が承認していたはずだ」とした上で、「万が一、改変があったとしたら、それは日本IBMが本件ではプロジェクトマネジメントを実施していなかったことを白状していることになる」と続ける。顧客に頼まれたからという理由で議事録を改変する行為は、プロジェクトマネジメントの教えに反するというわけだ。

 もう一つは、「日本IBMのプロジェクトメンバーが、スルガ銀の担当者に怒鳴られ、軟禁された」との発言だ。これについて野々垣部長は「ITベンダーの常套手段だ」と切り捨てる。「システム開発が難航していれば、現場で激論を交わすのは当たり前。日本IBMは、自社が有利であることを論理的に証明できないから、被害者意識を強調しているだけ。軟禁発言は『何も反論することができません』と認めているに等しい」(野々垣部長)。

 この裁判は、スルガ銀行が、基幹システムの開発失敗による損失など111億700万円の賠償を発注先の日本IBMに求めたもの。現在も係争中である。