6月8日に開催された「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」
6月8日に開催された「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」
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 国内の電子書籍市場のあり方について話し合う、経済産業省・総務省・文部科学省合同の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第2回が、2010年6月8日に開催された。この中で、日本語の電子書籍フォーマットについて、多様な端末で閲覧可能にするための中間フォーマットの策定などを盛り込んだ、ワーキングチームの第1次報告案が公表された。

XMDFや.bookなどを相互変換できる中間フォーマットを策定、ePub日本語化の動向も注視

 中間フォーマットについては、傘下組織である「技術に関するワーキングチーム」(技術WT)の第1次報告として盛り込まれている。日本語の電子出版に携わる関係者を中心に「電子出版日本語フォーマット統一規格会議」(仮称)を設置して、主要各フォーマットから相互に変換可能な中間フォーマットを作成するよう検討する。技術WTにはシャープとボイジャーの関係者が参加しており、国内市場で商用の電子書籍で使われている「XMDF」「.book」などの電子書籍フォーマットを参考にしつつ、検討を進めていく方針だ。併せて、米IDPF(International Digital Publishing Forum)が定め欧米の1バイト文字圏で広く使われている「ePub」やW3Cの定めるHTML5についても、日本語への対応状況を見極めつつ対応を検討する。さらに、日本と同様に漢字を使用している中国、韓国との連携も検討課題としている。中間フォーマットの策定後、IEC(国際電気標準会議)に国際規格化を提案し、海外の事業者や端末での対応を広げることを目指す。

 中間フォーマットの策定とともに、複数の端末やネットワーク、プラットフォームの間で相互運用性を確保するため、APIをオープン化することを検討する。このほか、電子書籍フォーマットと同様に書誌情報フォーマットも標準化を進める。米国議会図書館が定め、国立国会図書館でも採用予定の「MARC21」などをベースに、紙の書籍と電子書籍の双方を収録できる書誌情報データベースを作れるよう、関係者による議論の場を設けることを提言している。

 技術WTの第1次報告案では、電子書籍の貸与についても言及した。購入者が家族や友人に貸し出すケースでは、貸与先を限定する仕組み、一定期間経過後にデータを消去する仕組み、貸与回数を制限する仕組みなどについて、技術面から検討する。図書館による貸し出しについては、米国などの先行事例を検証し、図書館と出版社、電子書籍の販売業者などが連携して実証実験を行うことなどを盛り込んだ。

 技術WTと同じく懇談会の傘下組織である「出版物の利活用の在り方に関するワーキングチーム」(利活用WT)も、第1次報告案を公表した。現時点では議論の途上であるとしているが、具体的には、(1)著作物の権利継承者などの情報をまとめた著作権の集中管理システム(2)出版社を対象とする著作隣接権(3)共通のファイルフォーマットや文字コード体系(4)違法・有害情報への対応(5)書店の活性化(6)図書館と民間の役割分担(7)「知のアクセス」の確保(アクセシビリティ)――といった論点について議論を進めている。

「議論に加え実証実験を」「中間フォーマットはロイヤルティーフリーに」

 三田誠広構成員(作家、日本文藝家協会副理事長)は、著作権の集中管理システムについて持論を展開。「1950年代の作品は、著作権が残っているが継承者が分からない作品が多く、電子化して配信しようにも許諾が取れない。裁定制度は不便で利用が進まず、大きな著作権処理のできるシステムを作る必要がある。報告書には慎重なことが書かれているが、それでは100年たっても利用できないのは明らか。国民の税金で作った国立国会図書館のアーカイブを国民が利用可能にするために、超法規的に利用可能にするくらいの気持ちでやるべき」とした。

 野間省伸構成員(講談社副社長、日本電子書籍出版社協会代表理事)は、議論にとどまらず実際に試験配信してみることの重要さを唱えた。「電書協では著作者の利益と読者の利便性の両立、紙と電子の連動を目的に活動している。講談社では、2009年12月に刊行した五木寛之氏の『親鸞』について、2010年5月に上巻を全文無料で公開した。京極夏彦氏の『死ねばいいのに』は、2010年5月に紙の書籍と電子書籍をほぼ同時に出している。確信犯的に、紙に良い影響を出すだろうと考えてやっている。『親鸞』は2週間で30万件ダウンロードされ、紙の書籍の売れ行きも配信前より2~3割増えている。『死ねばいいのに』も、紙の書籍は当社の目標を上回るペースで売れている。例えばiPadの配信は結構面倒であるなど、実証実験をやってみて初めて分かることもある。電子書籍を比較的手軽に読める端末が出てきているので、ぜひ実証実験をやるような方向性を出してほしい」と語った。

 野口不二夫構成員(米ソニーエレクトロニクス上級副社長)は、中間フォーマットや書誌情報の統一化について「いい活動だと思うが、一方で懸念もある。フォーマットを世界に広げていくには、オープンな規格で誰もが参加する必要がある。また、ロイヤルティーフリーかどうかも重要。国が支援するような活動であるならばライセンス費用がかからないように整備を進めてほしい」と指摘した。