金融庁は2010年6月10日、第18回企業会計審議会内部統制部会を開催。内部統制報告制度(J-SOX)の簡素化・明確化に関して議論した。5月に実施した第17回内部統制部会での議論(関連記事)を受けたもので、「重要な欠陥」という用語や、内部統制監査の「レビュー化」などについて2時間にわたり議論した。「重要な欠陥」という用語は、今後作成する内部統制報告書では使わなくなる公算が大きそうだ。

 第18回部会では、前回示したJ-SOXの簡素化・明確化の案や、案に関する議論を基に、金融庁側の事務局と委員で7項目の論点に整理。各論点に関して議論した。

 「重要な欠陥」については、用語を見直すかどうか、見直すならどうすべきかを議論した。内部統制が有効でないことを表す「重要な欠陥(英語ではMaterial Weakness)」という用語が、企業自身に欠陥があるという誤解を生むとの指摘があったからだ。

 論点では、まず(1)投資家などが誤解する恐れがあることが問題なのか、(2)定義や判断基準そのものに問題があるのか、を明確にする必要があるとした。その上で、(1)であれば内部統制報告書および内部統制監査報告書で「重要な欠陥」という言葉を使用しない、(2)であれば定義や判断基準を検討するとともに、用語を「重要な(または著しい)不備」「重要な(または著しい)弱点」などに変更したらどうかと示した。

 (1)のイメージとしては、現行では「下記に記載した財務報告に係る内部統制の不備は財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く、重要な欠陥に該当すると判断した。したがって、…当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断した」としている部分を、変更後は「…財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高いため、…当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断した」とする。

 これを受けた議論では(1)を推す意見が大半を占め、定義や判断基準まで見直すべきとする意見は特に出なかった。このことから、内部統制報告書と内部統制監査報告書で「重要な欠陥」という言葉を使用しないとする案が採択される可能性が高い。

レビュー化には否定的

 この「重要な欠陥」の議論以上に、今回の部会で時間を費やしたのは内部統制監査のレビュー化の是非に関する議論である。J-SOXは内部統制報告の開示に、米国と同様の「監査」レベルを求めている。これに対し、欧州はより簡素な「レビュー」レベルであり、J-SOXの簡素化を考えるのであればレビュー化を検討する必要があるのではないか、との意見に対応したものだ。

 第17回部会でレビュー化に関する意見が出たが、それほど目立ったものではなかった。にもかかわらず、今回時間を費やして議論したのは、J-SOXの根幹にかかわる重要な論点であるとの認識があったからだとみられる。

 委員による議論の前に、専門委員を務める町田祥弘 青山学院大学大学院教授と、持永勇一 公認会計士が現行の監査制度をレビュー制度に変更した場合の見解を説明。町田氏は「内部統制報告制度にはまだ多くの問題点がある」としながら、「この制度を導入する以前は、内部統制の概念が日本では浸透していなかった。内部統制があれば本来防止できたはずの問題も発生していた」ことから「この制度に対して一定の評価はできる」と話した。

 その上で、J-SOXのレビュー化については「内部統制報告制度が定着しようとしている中で、社会的コストをかけてまで制度変更をするだけの意義があるのか」と疑問を呈した。J-SOXは評価範囲を絞り込んでおり、評価範囲内での検証についてはレビューでも同様の手続きが必要になり、「監査人の関与を減らすことにはならない」。このため、「コスト削減につながるかは疑問」と指摘した。

 一方、欧州に関しては日本と前提が異なるとした。欧州では米国型の内部統制報告は実施していないものの、内部統制をコーポレートガバナンスの問題とみなし、厳密なガバナンス規定と市場への開示で規律づけているとする。

 持永氏も日本公認会計士協会の立場から、J-SOXを財務諸表監査と一体化して実施する有効性を指摘。内部統制をレビュー化すると「監査人の手続きを一部省略できる」ものの、財務数値に関する手続きと内容が異なるほか、追加手続きが不可欠になる可能性もあり、「全体の工数として大きく削減されることは考えられない」と結論づけた。

 その後の議論でも、レビュー化を支持する意見はゼロに近かった。部会長を務める八田進二 青山大学大学院教授は、個人的な意見としながら「現状の制度で経済界の要請に応えているのではないか」と話した。この様子を見る限り、J-SOXがレビュー化する可能性はまずないと考えられる。

 このほか、「事業規模が小規模」な会社を定義すべきかどうかという論点については、「事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している組織等」と定義を設ける。数値基準については「削除しない」などとしている。

 次回の予定については明らかにしなかった。ただ、主要な議論は今回でほぼ完了したため、近いうちにこれまでの議論を反映させた基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準)、実施基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)、Q&A(内部統制報告制度に関するQ&A)の案を議論するとみられる。