米Appleのスマートフォン「iPhone」などを受託製造している中国工場において若い従業員の自殺が相次いでいる問題で、工場の親会社である鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)は現地時間2010年6月2日、賃金を30%引き上げると発表した。米Wall Street Journalなどの海外メディアが報じた。

 問題になっているのは鴻海精密工業傘下の富士康科技(Foxconn Technology)の深セン工場。Appleのほか、米Dellや米Hewlett-Packard(HP)、ソニー、フィンランドのNokiaなどの製品を製造している(関連記事:ソニーとノキア、自殺者相次ぐFoxconnに懸念を表明)。

 2010年に入り敷地内のビルからの飛び降りが相次いでおり、死者数は合計10人になったと伝えられている。同社やAppleなどが実態調査を開始しているが、今のところ原因は不明だ。ただ、「工場が低賃金長時間労働などの過酷な労働条件を強要していること原因ではないか」とメディア各紙は伝えている。

 米New York Timesによると、同社は1カ月の賃金をこれまでの900元(131.77米ドル)から1200元に引き上げる。同社は先の発表では「20%引き上げる」としていた。

 ただし、鴻海精密工業は自殺の原因が労働条件にあるとは認めていない。5月26日に開いた記者会見では、原因を徹底的に究明すると述べるとともに、自殺防止安全ネットを設置するなどの対策を打つとしていた。
 
 Wall Street Journalの記事によると、同紙主催のカンファレンス「D8」に出席したAppleのSteve Jobs最高経営責任者(CEO)は今回の自殺問題に触れ、「我々にとってとても深刻だ」と語った。鴻海精密工業の工場については「とても素晴らしい」と評価しているという。

 鴻海精密グループの全従業員数は80万人。深センに広大な敷地の工場を二つ持ち、合計42万人の従業員が働いている。多くが中国内陸部からの出稼ぎ労働者だ。一連の自殺者のほとんどが10歳代の工員だとされている。