写真●IASB(国際会計基準審議会)のディビッド・トゥイーディー議長(写真:萩原 丈司)
写真●IASB(国際会計基準審議会)のディビッド・トゥイーディー議長(写真:萩原 丈司)
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 「原則主義によって会計の実務担当者が本当のプロフェッショナルに戻る。自分たちで自らの会計処理を考えられるからだ。これまでは会計規則を調べることが中心の業務から大きく変わる」。こう語るのは、IFRS(国際会計基準)の設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)の議長を務めるディビッド・トゥイーディー氏だ(写真)。同氏は、企業の会計基準などを決めているASBJ(企業会計基準委員会)が2010年4月28日に開催した「第1回ASBJオープン・セミナー:IFRSの最新動向と我が国への導入」に登壇した。

 IFRSは会計処理について詳細な規則を置かず、原則的な考え方のみを示す「原則主義」を採用していることが特徴の一つである。日本の現行の会計基準や米国の会計基準(US-GAAP)は、会計処理の詳細を規定する「細則主義」で、日本の会計実務担当者にとっては大きな発想の転換になる。

 原則主義に対する不安について、「もし詳細な会計処理について分からないのなら、文献を探したり、パートナーに聞くといった作業をすればよい。会計処理の判断の過程をすべて文書に残せば、後から判断を誤ったことが分かっても過失にはならない」との見解をトゥイーディー氏は示した。

 トゥイーディー氏は会計の実務担当者だけでなく、企業がIFRSを採用するメリットについて、資本調達コストの削減や、海外の取引先や顧客の財務状態について理解が進むことを挙げる。加えて「これまでバラバラだった海外子会社の会計基準を統一することにつながり、情報システムも統合できコストの削減につながる」とした。

日本の文化は独自で好きだが、会計基準は国際標準に染まってほしい

 このほか講演でトゥイーディー氏は、IASBでのIFRSの検討状況の最新動向を報告。IASBでは現在、US-GAAPの設定主体であるFASB(米国財務会計基準審議会)とIFRSとの間の差異を縮める「MoUプロジェクト」が進行中だ。収益認識や財務諸表の表示、リース会計などMoU対象プロジェクトの進行状況を説明した。

 特にリース会計については、「とても大変な作業だが、オペレーティングリースが貸借対照表に載っていないというのはあり得ない」と強い口調でオペレーティングリースのオンバランス化について必要性を強調。「貸借対照表に載っている飛行機になるまでは死ねない」と表現して、オペレーティングリースのオンバランス化への意欲をみせた。現在、オペレーティングリースはオンバランス化されていないため、飛行機の機体は航空会社の貸借対照表に計上されていない。

 IFRSそのものを自国の会計基準として採用する強制適用(アダプション)について、日本は方向性は示したものの、最終的な決定は2012年に下される。日本の聴衆に対してトゥイーディー氏は「日本の文化はすばらしい。独自の文化を持っていて大好きだ。この文化を維持してほしい。ただし会計基準は別だ。国際標準に染まってほしい」と訴えた。

 同時に「IFRSの策定に監査人も実務の担当者もすべて参加してほしい。IFRSは欧州に支配されているという人もいるが、これは誤解だ。ASBJのサポートなど、日本の意見を聞くことが重要だと考えている」と強調して、日本の協力を要請した。

 トゥイーディー氏は「2009年9月25日に開催されたG20サミットでもMoUプロジェクトが取り上げられたように、IFRSはもはや政治課題になっている」と重要性を強調。「日本が最短で適用を考えている2015年には、フォーチュン500社のうちIFRSを採用している企業は310社に達する。一方で各国独自の基準を利用している企業は、2009年の155社から50社まで減る見込みだ。この時点で各国の会計基準を採用している50社は、どうして自国でIFRSを採用しないのだろうかと思うはずだ」(トゥイーディー氏)と、日本のアダプションの決定を促した。