経済産業省が設置している企業財務委員会はこのほど中間報告を公表した。中間報告書は、IFRS(国際会計基準)強制適用(アダプション)の方向性が発表されるといった日本の会計制度の国際化を受けて、会計制度のあり方や情報開示制度のあり方の議論をまとめたもの。「我が国経済を支える産業界の立場から、円滑な会計制度の国際化に向けて企業の経営・国際競争力に与える影響、国内制度のあり方について検討した」としている。

 中間報告では具体的に、(1)連結と単体の財務諸表を切り分けたうえでの議論、(2)情報開示制度の再設計、(3)非上場企業のための制度の議論、の3点を求めている。

 (1)では、いわゆる「連単分離」の考え方を提言している。IFRSのコンバージェンス(収れん)の対象になっているのは連結財務諸表のみである。中間報告では、日本の現行の会計基準をIFRSに合わせる取り組みであるコンバージェンスについて、「単体のコンバージェンスの議論と連結の議論をいったん分離する、手続き的な意味において『連単分離』を確立することが必要ではないか」などと提言している。

 連単分離が必要な理由について、日本の会計制度の慣習や、連結と単体の財務諸表が基づいている会計基準の差が拡大することによる情報開示のあり方、企業の負担などの論点を挙げて説明している。「配当・課税の計算の基礎となる単体へのコンバージェンスについては慎重な検討を要する」とするなど、特に配当・課税所得計算との関係について言及している。

 (2)は、2012年に実施するアダプションの決定に向け、四半期開示やJ-SOX(日本版SOX法)といった情報開示制度について再検討を求めている。四半期開示制度については、企業の長期的な競争力の強化や資金調達といった実務面の負担を考慮して「四半期開示制度を簡素化の方向で見直していくことが必要なのではないか」としている。

 J-SOXについては、「開示情報の監査をする際にJ-SOXの効果を鑑みた適切な検討が求められる」としている。IFRSが詳細な会計処理を決めずに原則主義を採用していることや、定性的な非財務情報が増加することなどから、財務諸表監査の実施がこれまで以上に困難になるためだ。

(3)では、国際化をしていない非上場企業が利用する会計基準について、「会計の国際化の議論の範ちゅう外であることを明確にする必要があると考えられる」と中間報告では提言する。約260万社の非上場企業は国際的な資金調達を実施していないことや、コンバージェンスによって「会計と税の乖離(かいり)が進む」ことが非上場企業の負担の増大につながると指摘している。

 中小企業については、中小企業庁の「中小企業の会計に関する研究会」やIFRS対応会議の「非上場会社の会計基準に関する懇談会(関連記事)」などを挙げて、議論が進められているとしている。両方の委員会とも2010年夏ごろに方針やフレームワーク(枠組み)を取りまとめる予定である。

 企業財務委員会は、経済産業省の経済産業政策局企業行動課が設置している委員会。20社のCFO(最高財務責任者)や日本経済団体連合会、経済同友会といった経済団体が中心のメンバーだ。委員長は三菱電機常任顧問の佐藤行弘氏が務めている。