写真●目に涙を浮かべる富士通元社長の野副州旦氏
写真●目に涙を浮かべる富士通元社長の野副州旦氏
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 富士通元社長の野副州旦氏は2010年4月7日、東京都内で会見を開き、辞任の経緯や今後の行動の方針について語った(関連記事)。野副氏と、畑・植松法律事務所の畑敬弁護士が記者の質問に回答。畑弁護士が「多くの報道機関の前でこうして会見を開いていることで、野副氏の名誉の回復はある程度できたかと思っている」と語った際には、野副氏が涙を浮かべる場面もあった(写真)。会見での一問一答は以下の通り。

今回、一連の行動を取った理由は何か。

 会社のトップが、事実ではないことを理由に密室で解任されてしまった。経営の透明性を確保するための取締役会も、単なる事後報告の場としてしか機能しなかった。私とかかわりが深かった社員も、降格人事などを受けていると聞く。

 今回のようなことを二度と起こさないようにするためにも、第三者による外部の調査委員会を作り、事実が明らかになるよう求めていきたいと考えている。

辞任に追い込まれた昨年9月25日の状況は。

 取締役会前に突然別室に呼ばれ、入ってみるとこれまで体験したことのない異様な雰囲気だった。そこにいた複数の役員は、私と付き合いのある人物二人が反社会的勢力と関係があると信じ込んでいた。

 突然のことだったので、最初のうちは「疑わしい人物との付き合いは注意しろ」という意味だととらえていた。まさか辞任を迫られるとは思っていなかった。

 その後、「取締役を辞任しないと富士通が上場廃止になる」と迫られたことなどから、「事実を知らないのは私だけか」と誤信し、辞任要求を受け入れた。だが調査を依頼した結果、役員が私の知人を「反社会的勢力と関係がある」と判断した証拠が誤りであることが分かった。

「私は富士通は大好きだし、今でも変わらない」

名指しされた人物との関係はどのようなものだったのか。

 二人とも以前から面識はあるが、社長になってからは、一人は1回会食しただけだ。もう一人は数回合ったものの、そのすべてに富士通の社員、相手方の社員が同席していた。会話は、仕事に関するものだけだった。

具体的には、富士通の誰が今回の事件に主要的に関与したと考えているのか。

畑弁護士 法的措置を検討しているので、個人名を挙げることは控えたい。

野副氏 誰が中心的な役割を果たしたかは、私にも分かっていない。私に辞任を迫った役員の中には、「野副が反社会的勢力と関係がある」という事実を信じ込まされていただけの人もいただろう。

4月に富士通の経営陣は新しくなった。現在の経営陣にも野副氏を辞任に追い込んだ勢力がまだ残っているのか。

 10人の取締役のうち変わったのは6人で、残った人も4人いる。状況はあまり変わっていないと考えている。

どのような法的措置を検討しているのか。

畑弁護士 富士通子会社のニフティの再編に関して約50億円の損害を会社に与えたとして、富士通の役員2人に提訴請求書を送っている。

 このほか役員と幹部社員数人に対して、損害賠償と名誉回復を請求する可能性がある。これは外部調査委員会を設置しない限り、訴状を書くのが難しい。まずは外部調査委員会の設置を強く求めていく。

 ただ、今回多くの報道機関に関心を持って集まってもらい、事情を説明できていることで、野副氏の名誉はかなりの部分回復できたのではないかと考えている。

野副氏 私は富士通が大好きだし、今でもそれは変わらない。今回のことも、会社全体からこういった対応を受けたとは感じていない。そのため、会社に対して損害賠償を請求することはしない。

事実を明らかにすれば、企業価値はすぐ取り戻せる

野副氏の辞任によって富士通の株価が下がるなど、外国人投資家を中心に「富士通の企業価値は大きく下がった」という認識が広がっている。

 マーケットにおける富士通の企業価値を取り戻すことは、極めて簡単だと考えている。外部調査委員会を設置して事実を明らかにすれば、すぐにマーケットの信用を得られるだろう。富士通の社長を務めてみて、改めて「富士通は強い底力のある会社だ」と感じた。

6月の富士通の株主総会に出席して自ら質問することは考えているか。

 今のところは考えていない。それでは6月までじっと待っていなくてはならないからだ。4月中のできるだけ早い段階で決着をつけたいと思っている。

自身で手をつけた富士通の構造改革は道半ばだった。今後改革は進むと思うか。

 例えば、富士通ビジネスシステム(FJB)の完全子会社化による効果をどう出していくかということについては、私が描いていた形と、今後実際に舵を取る人とでは、進め方が違うだろう。だが、やり方は違ったとしても、改革を進めて効果を上げてくれると思っている。

富士通の山本正己新社長についてはどのように評価しているか。

 豊富な経験を持っていて、能力も非常に高い。ただ、会社のことは一人では決められない。経営の構造をどう作っていくかにかかっている。二度と今回のような事態に陥ることのないよう祈っている。