東京証券取引所が設置している上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会は報告書をまとめて公表した。報告書のタイトルは「四半期決算に係る適時開示、国際会計基準(IFRS)の任意適用を踏まえた上場諸制度のあり方について」。四半期決算短信の開示内容や時期の見直しや、強制適用(アダプション)を前にIFRSを任意に適用する企業の適時開示のあり方などを提言する。

 報告書ではIFRSを適用した場合の基本的な考え方として、「IFRSを適用した場合の財務諸表上の数値をできる限りそのまま既存のルールの適用にあたっての判断に利用することとし、日本基準に基づく財務諸表上の近似値をIFRS適用後も利用するという考え方は取らない」ことが適当であると冒頭に示している。この考え方に基づき、IFRSを適用した場合の適時開示の判断基準や決算短信に記述すべき情報などに言及している。

 上場企業のうち一定の条件を満たした企業は2010年3月期以降から任意にIFRSを適用できることから、ディスクロージャー部会は報告書を公表した。すべての上場企業などにIFRSを強制適用するのは早くて2015年だが、その前に複数の企業がIFRSを任意に適用するとみられる。

 四半期の決算短信については、現行の制度では「30日以内に開示することが望ましい」として早期開示を要請しているのに対して、「上場会社の判断によって、投資者ニーズに応じた的確な開示時期を選択できるよう見直すことが適当」などを提言している。

「包括利益」は短信で実績値を開示

 IFRSを任意に適用した企業の適時開示の要否を判断する基準について、現在利用している純資産額や売上高、当期純利益といった財務数値を用いることで「著しく重要な差異や不都合が生じることは想定されない」と報告書では記述している。ここで議論している開示判断の基準は「軽微基準」と呼ばれるもの。開示が必要な程度に、業績に大きな影響をおよぼすかどうかを判断する基準だ。

 一方で現行の日本の会計基準にはなく、IFRSで新たに導入される「包括利益」は、適時開示の判断基準として「避けるべきである」との考えを示す。包括利益を計算する要素の一つである「その他の包括利益」が、資産価値の変動などにより発生するもので「通常の営業活動とは必ずしも密接な関係が見られない」からだ。ただし報告書では、「その他の包括利益に属する項目に重要な影響を及ぼす事象について適時開示の対象とすべきではないか」との意見を併記している。

 報告書では、IFRSを任意適用する場合の決算短信で開示する実績値のサマリー情報のあり方にも言及している。IFRSでは開示を強制していない営業利益や税引き前利益については、「売上高から当期利益に至るまでの過程を示すことは重要」との趣旨から「開示を求めることが適当である」としている。

 適時開示の判断基準として「避けるべき」とした包括利益も「開示の対象とすることが適当」としている。「資本合計への影響額を情報として示すことは有用であると考えられるため」だ。ただし包括利益の予測値については、「合理的に予測し、開示することは困難である」との見方を示している。

「適用初年度の対応」にも言及

 報告書では適時開示の判断のほか、「IFRS適用初年度の対応」について言及。IFRSを適用した結果、債務超過に陥った企業の上場廃止に対する考え方や、比較可能性の担保などを検討事項としている。報告書では強制適用に向けて、IFRS任意適用の企業の動向を見ながらの検討課題も挙げている。

 IFRSを適用した初年度、現行の会計基準との差異により一時的に債務超過になった場合は、「日本基準とIFRSの差異による影響額を除外したうえで、上場廃止基準や指定替えの基準を適用する」といった趣旨の対応が適当としている。

 またIFRSを適用した初年度は、過去の決算と比較できるようにするために「法定開示において適用初年度が求められている情報」を決算短信でも同様に開示すべきとしている。具体的には、前期と当期の「IFRSに基づく財務諸表」「日本基準に基づく要約財務諸表」「日本基準とIFRSの間の差異に関する説明」と、前期の「IFRSに基づいた財政状態計算書(現行の「貸借対照表」に当たるもの)」が法定開示の書類に当たる。

 報告書では今後の検討課題についても挙げている。注記や定性情報の開示などについて「IFRSの任意適用期間の実務の状況を踏まえて継続して検討することが望まれる」としている。