総務省と文部科学省、経済産業省は2010年3月17日、デジタル化した出版物に国民がアクセスできる環境整備や、その環境を利用した新しいビジネスモデルについて検討する「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第一回会合を開催した。

 会合に先立って挨拶した文部科学省の中川正春副大臣は「出版関係者から、海外から新しい波が来てこのままでは国内の事業者は世界の潮流に取り残されるか、あるいは全部さらわれてしまうという危機感を聞いた。こうした現状を踏まえて関係者それぞれの立場から意見を聞き、日本型ビジネスモデルの落とし所を探っていきたい」と懇談会開催の目的を説明した。懇談会では、(1)デジタル・ネットワーク社会における出版物の収集・保存のあり方、(2)デジタル・ネットワーク社会における出版物の円滑な利活用のあり方、(3)国民の誰もが出版物にアクセスできる環境整備――の3点について検討を行う。

 懇談会には、メーカー、通信キャリア、Webサービス事業者、作家、出版社、権利者団体、印刷会社、研究者、書店、図書館などの立場を代表する26名が構成員として参加した。

 プレゼンでは、講談社の野間省伸副社長が、出版社31社が参加して2010年3月下旬に設立する予定の「日本電子書籍出版社協会」の概要について説明した。野間社長は、デジタル出版の課題として「出版社の権利の明確化」「官民の役割分担」「文化の多様性確保」の3点を挙げた。このうち官民の役割分担については、「過去の出版物のデジタル化は民間だけでは難しいので、官の協力でどんどん進めて欲しい。一方、コンテンツの配信については民間主導でできる話ではないか」と指摘した。

 続いて国立国会図書館の長尾真館長が、「国民の知る権利を保障するために知への総体である出版物へのアクセスを公的に保証する必要がある。そのためにもデジタル時代の図書館貸し出しモデルを検討する必要がある」と述べ、議論のたたき台となる私案を説明した。私案では、出版社からの納本を使って国立国会図書館が書籍をデジタル化し、アーカイブを作成する。デジタルデータの利用者への貸し出しと権利処理を専門に行うNPO法人「電子出版物流通センター(仮称)」を設立し、国立国会図書館が作ったアーカイブを活用して有償の貸し出しサービスを提供する。出版社や権利者には、電子出版物流通センターが利用者から徴収したアクセス料金を支払う、というモデルとなっている。

 構成員の議論では、作家や出版社、書店など出版事業に関わる関係者それぞれの立場から、権利処理や図書館のあり方など、デジタル化が進んだ後も事業を継続できるようなビジネス環境の整備に配慮を求める意見が相次いだ。欧米で電子書籍ビジネスを手掛ける米Sony Electronicsの野口不二夫上級副社長は、「米国では6000の公共図書館で電子書籍を貸し出している。貸出冊数や期間を設定しており、物理的な制限がないからといって無限に貸し出しているわけではない。デジタルだからこそ厳密に著作権を守りやすいという側面もあるので、ぜひ活用してほしい」と延べ、既存ビジネスとの共存の方法はあるとする見解を示した。

 懇談会では今後、配信プラットフォームの整備や利用フォーマットのあり方など技術的な問題を議論する「技術に関するワーキングチーム」と、出版業界の産業構造の実態を踏まえつつ関係者の役割分担を議論する「出版物の利活用の在り方に関するワーキングチーム」の二つのワーキングチームを設置し、議論を進める方針である。ワーキングチームでの検討を踏まえた上で、懇談会として2010年6月中に議論を取りまとめる予定である。