写真●米オラクルでFinancial製品開発ディレクターを務めるシェイマス・モラン氏
写真●米オラクルでFinancial製品開発ディレクターを務めるシェイマス・モラン氏
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 「欧州でIFRS(国際会計基準)が適用になった時、対応する企業で多くの問題が発生した。IFRSにのっとった財務報告は何とか作成できたが、監査人の不慣れにより監査報告書が長期間にわたり提出できなかった企業もある」。米オラクルでIFRS関連の調査などを担当するシェイマス・モラン氏(写真)は2010年2月12日、日本オラクルが主催したIFRSに関する記者会見でこう語った。モラン氏は米オラクルでFinancial製品開発ディレクターを務めている。

 欧州では2005年にIFRSが強制適用になった。モラン氏は「05年に欧州の企業で混乱が起こった原因の多くは、IFRSを十分に理解していなかったことにある」と振り返る。決算期をまたいで顧客に着荷した製品に対して、規定通りの税金の支払い方法では対応できないといった会計処理の問題が数多く発生したという。

 モラン氏はこうした事例も踏まえて「IFRSはビジネスの問題ととらえるべき」とアドバイスする。「ERP(統合基幹業務システム)パッケージは、IFRSが求める要件を満たす機能を備えている。しかし、その機能をどう使うかを決めるのは企業だ」とモラン氏は一例を挙げる。欧州では「パッケージソフトに機能があるかどうかよりもまず、社内の会計処理方法が決まらなかったことが問題だった。そのために、パッケージソフトの設定が遅れ、作業全体が遅れたケースがあった」(モラン氏)。

 モラン氏が特に影響が大きいとみるのは、固定資産にかかわる処理だ。IFRSでは固定資産の実際の耐用年数を計算することを求める。「固定資産にどう対応すればよいかは、世界的に問題になった。日本では特に税法上の耐用年数がはっきりと決められており、IFRSとの差異が大きくなる可能性が高い」とモラン氏は指摘する。

 もう1点、モラン氏が強調したのは「対応できるものからすぐに対応すべき」ということだ。現在、IFRSを策定しているIASB(国際会計基準審議会)は、米国の会計基準との差異を埋めるプロジェクトを進めており(関連記事)、収益認識やリース関連で大きな会計基準の変更が予定されている。このような確定していない基準があっても、今から対応したほうがよいとモラン氏は訴える。「対応には業務処理を変更したり、システムに新機能を追加したりする必要があり、対応に時間がかかるケースが多い」とした。

 モラン氏は、米オラクルでIFRSに関する情報収集を続ける立場にある。IASBの「IT討議グループ」にも活動メンバーとして参加している。IT討議グループは、議論されている会計処理の方法が実際のビジネスアプリケーションで処理できるかを検討している。「当社だけでなく、独SAPや統合前の米ハイペリオンなどが参加している」(モラン氏)という。IFRSの最新動向を知るためには、「こうした組織やIASBが提供するトレーニングや各種報道を確認するしかない」とモラン氏は話す。