「経験と若さを天秤にかけて、若さに賭けた」。富士通の間塚道義会長兼社長(65)は2010年1月22日、社長交代を発表する記者会見で、次期社長に山本正己執行役員常務(同日付で執行役員副社長に就任、56)を選んだ理由を、こう説明した(関連記事)。山本氏を中心とした新経営体制について、経験が足りない面があるのではとの報道陣の質問に答えたものだ。

 4月1日付で新社長に就く山本氏は、この1月11日に56歳の誕生日を迎えたばかり。これは、「富士通の歴代社長の中で、山本卓眞氏の55歳9カ月に次ぐ2番目の若さだ」(間塚氏)。50代の社長誕生は、1998年に59歳でその座に就任した秋草直之取締役相談役(71)以来、12年ぶりのことである()。

表●富士通の歴代社長と在任期間
氏名(就任時の年齢)在任期間
山本 卓眞(55)1981年6月~1990年6月(9年)
関澤 義(58)1990年6月~1998年6月(8年)
秋草 直之(59)1998年6月~2003年6月(5年)
黒川 博昭(60)2003年6月~2008年6月(5年)
野副 州旦(60)2008年6月~2009年9月(1年3カ月)
間塚 道義(65)2009年9月~2010年4月(7カ月)
山本 正己(56)2010年4月~

 山本氏を支える5人の副社長と比べても、同氏の若さは際立つ。山本社長の誕生と同時に副社長に昇格する石田一雄上席常務(59)、藤田正美常務(53)、佐相秀幸常務(57)、生貝健二執行役員(58)、4月以降も引き続き副社長を務めるリチャード・クリストウ氏(65)のうち、4人が山本氏より年上だ。

 「年上の副社長を持ってやりにくくないか」という記者の質問に対し山本氏は、「役員にもなれば、年齢は関係ない」と答えた。「そもそも、世界の競合他社の経営トップと比べれば、私も決して若くはない。年齢は気にせず、グローバルに攻める」(山本氏)。

 新社長の山本氏は、ワープロ専用機の「OASYS」やパソコンなどプロダクト部門の経験が長い。現在はサーバーを含むシステムプロダクトビジネスグループ長を務めているが、その前はユビキタスプロダクトビジネスグループ長、パーソナルビジネス本部長などを歴任してきた。富士通の稼ぎ頭であるサービス部門の経験はないが、間塚氏は「若さと、決めたことを徹底的にやり遂げる行動力を高く評価した」と語った。

 社長選定については、富士通が2009年10月に発足させた社長指名委員会で検討を進めてきた。同委員会は、取締役の大浦溥アドバンテスト相談役、同 野中郁次郎一橋大学名誉教授、および間塚氏の3人からなる。

 委員長を務める大浦氏が、富士通の副社長と上席常務・常務の全員、および執行役員の一部と面接を重ねるなどして、「社長候補を10人程度に絞り込んだ」(間塚氏)。それに前後して「1回3時間、合計3回の指名委員会を開き、議論を重ねた。最終的に3人一致で山本氏という結論にたどり着いた」(同)という。

 間塚氏が山本氏に社長就任について伝えたのは、1月18日の月曜日のこと。「社長をお願いしたい」との間塚氏の言葉に、山本氏は「指名された以上は全力で取り組みますと、その場で力強く答えた」(間塚氏)。このときの心境について、山本氏は「重責であり一瞬は躊躇したが、誰かがやらなければならないのならば、全うしようと決意した」と振り返る。