写真●AfterJ-SOX研究会のパネルディスカッション
写真●AfterJ-SOX研究会のパネルディスカッション
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 「J-SOX(日本版SOX法)初年度の対応は手作業で済ませた企業が多かったのではないか」。IT企業が集まりJ-SOXについて研究する「AfterJ-SOX研究会」は2009年12月8日、第10回の研究会を開催。「J-SOXの実態と今後の課題」をテーマにしたパネルディスカッションを実施した。パネルディスカッションではJ-SOX初年度を振り返って冒頭のような意見が出たほか、「IT全般統制の運用状況をきちんと監査された企業は少ないようだ」といった議論が出た(写真)。

 パネルディスカッションの参加者は、AfterJ-SOX研究会の会長で立命館大学大学院の田尾啓一教授、日本オラクルの桜本利幸氏、日立製作所の谷岡克昭氏、アビームコンサルティングの永井孝一郎氏の4人。モデレータは日経BP社ITpro副編集長の田中淳が務めた。AfterJ-SOX研究会にはIT企業を中心に、J-SOX関連の製品・サービスを提供する企業が42社参加している。

 パネルディスカッションではJ-SOX1年目の企業側の対応のほかに、J-SOX関連の製品・サービスを提供する側としての見解を各人が明らかにした。コンサルティング会社の立場から「既存ビジネスとの相乗効果もあり、J-SOX関連のコンサルティングは成功した部類に入る」と評価するのはアビームの永井氏だ。2年目に入った企業からは、「負荷を軽減したいとのニーズが高い。評価作業の委託を希望する企業向けにサービスを提供し始めている」(永井氏)状態だ。

 ERP(統合基幹業務システム)パッケージや内部統制の評価支援ツールなどを提供する日本オラクルの桜本氏は、「当初の期待ほどはIT関連の需要は高まらなかった」と話す。ただし桜本氏は「2年目に入っても、当社のERPパッケージの利用者からJ-SOX関連の問い合わせが続いている」とする。その内容は「自社のERPパッケージの設定を知るためにはどうすればいいか」といった限定的なものだという。

 J-SOX 2年目以降の関連ビジネスについて、両氏は懐疑的な見方を示した。アビームの永井氏は、「J-SOX関連のビジネスの山は、ほぼ終わったとみている」とみる。「1年目の対応を追えた経営者はJ-SOXへの興味を失っている。コンサルティング業界の中でJ-SOX専門として設立した企業は今後、厳しいのではないか」(永井氏)という。日本オラクルの桜本氏は「特権ID管理ソフトや職務分掌を確立するためのソフトを新規に導入したいといった需要はない。2年目に入ってもIT化が進まないのではないか」とした。

 日立製作所の谷岡氏は「J-SOX用というシステムは存在しない。監査対応支援はあるが、それは企業そのものの内部統制の整備・運用を支援するものではない。だが今後、新規にシステムを構築する企業が必ず、J-SOX対応を念頭に置いた要件を出してくるだろう」とした。

 AfterJ-SOX研究会では、企業価値の向上のためにJ-SOX対応をERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)につなげることを提唱している。この点について、立命館大学の田尾教授は「J-SOX対応をERMにつなげる動きはまだ盛んではない」と話す。「金融機関ではERMへの取り組みが進んでいる。しかし、金融機関のやり方を製造業にそのまま当てはめるのは非常に難しい」とみる。

 「J-SOXによって、財務報告に係るリスクからほかのリスクマネジメントに広がる動きはある。だが、連結経営を念頭においたリスク管理までは広がっていない」(田尾教授)状況だ。こうした企業が連結経営まで視野に入れたERMに着手するためには「まったく新たな取り組みとして臨む方が効率はよいのではないか」と田尾教授は語る。

 最後にJ-SOX対応2年目以降について、田尾教授は「日本経済の見通しが暗い中で、後ろ向きにとらえるとさらに暗くなってしまう。J-SOX対応を前向きに明るくとらえ、欧米のような強固な連結経営のきっかけと、とらえた方がよい」と提言した。2007年10月に設立したAfterJ-SOX研究会は、今回の第10回で研究会を休止する。