写真1●発表会でのデモに使ったシステム  東京と米国オレゴン州のポートランド間のネットワークと同様の往復遅延時間(136ミリ秒)を再現するため、ネットワーク遅延発生装置(左の装置)を用いた。右側がクライアント・パソコン。
写真1●発表会でのデモに使ったシステム 東京と米国オレゴン州のポートランド間のネットワークと同様の往復遅延時間(136ミリ秒)を再現するため、ネットワーク遅延発生装置(左の装置)を用いた。右側がクライアント・パソコン。
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写真2●デモで使ったWebサーバー
写真2●デモで使ったWebサーバー
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 東京大学の平木 敬教授らの研究グループは2009年11月27日、家庭用サイズのパソコンと改造したWebブラウザ(Firefoxを改造した「UsadaFox」)を使い、日米間で最大6.5Gビット/秒のデータ転送を実現したと発表した。この記録は2009年11月14日~20日まで米国オレゴン州ポートランドで開催されたスーパーコンピュータ関連の国際会議である「Supercomputing 2009(SC09)」のバンド幅チャレンジで披露したもの。httpを用いて158Gバイトのファイルを6.5Gビット/秒の速度で東京大学からSC09会場に送信した。使用した日米間のネットワークの往復遅延時間は136ミリ秒である。

 今回の発表会ではSC09で使ったネットワークの往復遅延時間を人工的に再現する装置を用い、25Gバイトのデータを1分程度で転送する様子をデモした(写真1)。ネットワークは10Gビット/秒の回線を利用している。1Gビット/秒のFTTHを利用する場合でも、「通常のWebアクセスに比べて150倍高速化できるだろう」(平木教授)。

 このシステムの意義は、超高速なデータ転送をスーパーコンピュータのような大掛かりな装置ではなく、家庭用サイズおよび市販の部品で構成したパソコンで実現できるようにしたことにある。データ転送実験では、クライアントおよびサーバーの両方に同スペックの家庭用サイズのパソコンを使用。クライアントには長距離転送に最適化した改造WebブラウザであるUsadaFoxを、サーバーにはWebサーバー・ソフトのApacheをインストールした。クライアント、サーバーいずれもOSはLinux(CentOS 5.3)で、CPUは米インテルのCore i7 940、6台のSSDを搭載し、10Gビット/秒のインタフェース(米チェルシオ・コミュニケーションズのS310)を備える(写真2)。

 高速なデータ転送速度は、(1)Webサーバー側でデータの送り方を調節する精密なページング技術、(2)TCPのバッファやウィンドウ・サイズを制御するTCP通信最適化技術、(3)ApacheとFirefoxの最適化──の三つの技術で実現した。(3)のApacheの最適化は不要なオプションを使わないだけだという。Firefoxの最適化については、メモリーへのコピーをやめ、キャッシュも頻繁に消す(フラッシュする)ようにしている。

 平木教授らはこのシステムを「データレゼボワール」と名づけ、2001年から研究を進めてきた。平木教授は「今回装置を小型化できたことで、誰にでも遠距離・超高速なデータ転送ができるようになった。開発したUsadaFoxはまだ荒削りなので、今後改良していく」としている。UsadaFoxや高速化のノウハウは今後広く公開する予定だという。


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