「政府が蓄える膨大なパブリックデータを使えば、非常に面白いアプリケーションを開発できる。パブリックデータにはイノベーションを起こす未知の可能性がある」---米マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクトであるレイ・オジー氏は2009年11月17日(米国時間)、開発者会議「PDC09」の基調講演に登壇。米国航空宇宙局(NASA)などのデータを加工しやすい形で開発者に提供するサービス「Dallas(開発コード名)」によって新しい種類のアプリケーションが開発できるようになると力説した。

写真1●Dallasでは様々なデータが提供される予定
写真1●Dallasでは様々なデータが提供される予定
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 Dallasは、マイクロソフトが同日に発表したソフトウエアサービスの市場(マーケットプレイス)である「PinPoint」の一部として提供されるサービス。PinPointは、マイクロソフト以外のサードパーティがクラウドサービス「Windows Azure」上に構築したソフトウエアサービスを世界中に販売できる市場だ。Dallasはソフトウエアサービスではなく、「データ」を販売する市場となる(写真1)。

 Dallasは、マイクロソフト自身がWindows Azureとデータベースのサービスである「SQL Azure」を使って構築したサービスで、ユーザーは大量のデータを様々な形式で入手できる。例えば、Webサービスでよく使われるAtom形式やマイクロソフトのデータベース接続技術のADO.NETを使ってデータを入手したり、Excelから直接データにアクセスしたりして、データを利用できるとする。

連邦政府は「データの民主化」を推進

写真2●米国連邦政府のCIO(最高情報責任者)であるヴィヴェク・クンドラ氏
写真2●米国連邦政府のCIO(最高情報責任者)であるヴィヴェク・クンドラ氏
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 PDC09の基調講演には、米連邦政府のCIO(最高情報責任者)であるヴィヴェク・クンドラ氏(写真2)もビデオ中継で登場し、連邦政府が所有する様々なデータをDallasなどを通じて提供していく方針であることを明らかにした。

 クンドラ氏は連邦政府の取り組みを「データの民主化(democratize data)」と表現する。軍事用のGPS(全地球測位システム)を公開したのもデータの民主化の一例だ。

 GPSを開放することで、様々な民生機器やサービスが登場した。このように、政府が蓄える膨大なデータを入手しやすい形で国民や企業に提供することで、イノベーションが加速されるとクンドラ氏はアピールした。

 Dallasで提供するデータとしては、NASAが観測した火星表面のデータなどを挙げた。PDC09の基調講演では実際にこれらのデータを使用したアプリケーションのデモも披露している。

「3つの画面と1つのクラウドが実現するWeb中心エクスペリエンス」を強調

写真3●マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクト、レイ・オジー氏
写真3●マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクト、レイ・オジー氏
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 オジー氏(写真3)はPDC09の基調講演で、同社が最近開発者に対して訴えかけているコンセプトである「3つの画面と1つのクラウド(3 Screens and a Cloud)」を改めて強調した。3つの画面とはパソコン、携帯電話機、TVであり、それらの画面の上ではいずれもInternet ExplorerとSilverlightという共通するアプリケーションプラットフォームが利用可能になる。

 これらをつなぐ中心として、Windows Azureというクラウドが存在する。オジー氏はクラウドを中心として様々な機器がつながることを「Web中心エクスペリエンス」と表現した。

 17日に正式にサービスが始まったWindows Azureに関しては、使用できる仮想マシンの種類が増えたことを発表した。Windows Azureは、Webサーバーに相当する「Webロール」というサーバーと、アプリケーションサーバーに相当する「ワーカーロール」というサーバーを使用してアプリケーションを運用する。仮想マシンとして提供されるこれらのサーバーの仕様は、これまで明らかになっていなかった。

 今回の発表で仮想マシンの種類は4つに増えた。仮想プロセッサコア(1.6GHz動作)の個数と、搭載するメモリーの容量がそれぞれ異なり、(1)コアを1個、メモリーを1.75Gバイト搭載する「Small」(1時間当たり0.12ドル)、(2)コアを2個、メモリーを3.5Gバイト搭載する「Medium」(同0.24ドル)、(3)コアを4個、メモリーを7Gバイト搭載する「Large」、(4)コアを8個、メモリーを14Gバイト搭載する「X Large」、という4種類がある。

PHPやJavaのプログラムもWindows Azureで稼働

写真4●PHPで開発したブログシステム「WordPress」をWindows Azureで稼働させた場合の設定画面
写真4●PHPで開発したブログシステム「WordPress」をWindows Azureで稼働させた場合の設定画面
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 Windows Azureはこれまで、.NETベースのWebアプリケーションが稼働できるプラットフォームであるとされていた。しかし、今回の基調講演でJavaやJavaの開発ツールであるEclipse、PHPとPHPのフレームワークである「Zend Framework」、リレーショナルデータベースの「MySQL」やオープンソースの分散メモリーキャッシュである「memcached」が利用可能になることが明らかになった。

 PDCの基調講演では、PHPで開発したブログシステムである「WordPress」が、Windows Azure上で稼働できることなどを披露した。Windows Azureではデータを、「Azure Storage」と呼ぶストレージサービスやSQL Azureに保存する。PHPのプログラムからAzure Storageを使う場合は、「Windows Azure Storage Plugin」というモジュールを利用することや、WordPressもこの仕組みを使用していることなどを説明した(写真4)。

Azure Storageの新機能「XDrive」はNTFSのディスク・ボリューム

 Windows Azure本体の機能強化としては、Azure Storageに「XDrive」という新機能を追加すると発表した。Azure XDriveは、Windows Azureの仮想マシンにNTFSのディスク・ボリュームを接続する機能である。

 マイクロソフトはこれまで、Azure Storageには表形式のデータベースである「Table Storage」と様々な形式のデータを保存できる「Blob Storage」、WebロールとWorkerロールを連携させる「Queue」の3種類があると説明していた。これらWebサービス経由で利用するストレージとは別に、開発者が使い慣れたNTFSのディスク・ボリュームも利用可能にする。

 オジー氏は講演の最後で、「クラウドコンピューティングはまだ始まったばかりだ」と強調。今後もWindows Azureに様々な機能を追加していく姿勢をアピールした。