米マイクロソフトは2009年11月17日(米国時間)、米ロサンゼルスで開催中の「PDC(Professional Developers Conference)09」で基調講演を実施した。講演では「Windows Azure」にアプリケーションやデータの販売機能を追加、Windows Server 2008 R2に分散アプリケーション基盤「Windows Server AppFabric」を追加、などを発表した。

 Windows Azureは同日にサービスが正式に始まったクラウドサービスである。まずは米国に2カ所、アイルランドに1カ所あるデータセンターを通じてサービスを提供する。2010年にはデータセンターの場所をオランダ、シンガポール、香港に拡大する。サービスの開始時点で、日本にデータセンターは無い。

 PDC09の基調講演では、Windows Azureに関してチーフ・ソフトウエア・アーキテクトのレイ・オジー氏(写真1)が、Windows Server 2008 R2に関してサーバー&ツールビジネス担当プレジデントのボブ・マグリア氏(写真2)が発表を担当した。

写真1●マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクト、レイ・オジー氏
写真2●マイクロソフトのサーバー&ツールビジネス担当プレジデント、ボブ・マグリア氏
写真1●マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクト、レイ・オジー氏(左)、写真2●マイクロソフトのサーバー&ツールビジネス担当プレジデント、ボブ・マグリア氏
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 基調講演では、(1)パートナーがWindows Azure上に構築したアプリケーションサービスなどを世界中に販売できる市場(マーケットプレイス)「PinPoint」、(2)PinPointの一部として様々な企業や組織が大容量のデータを販売・配布できる市場「Dallas(開発コード名)」、(3)Windows Azureで利用できる仮想マシンや開発言語、データベースの種類の増加、(4)分散アプリケーションサーバーや分散メモリーキャッシュで構成される「Windows Server AppFabric」---などを発表した。

写真3●Windows Azure上に構築したソフトウエアサービスのカタログ「PinPoint」
写真3●Windows Azure上に構築したソフトウエアサービスのカタログ「PinPoint」
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 PinPointは、マイクロソフト以外の企業(サードパーティ)がWindows Azure上に構築したソフトウエアサービスを、世界中の企業に向けて販売できるという仕組みである。iPhoneの「AppStore」に相当する。

 ソフトウエアサービスは種類によってカテゴリ分けされ、顧客企業がサービスを選択しやすいようにする(写真3)。Windows Azureはアプリケーションの負荷に応じてシステムを拡張したり縮小したりするのが容易なインフラストラクチャ・サービスであり、ソフトウエアメーカーが外部の企業にサービスを提供するのに向いているとしている。

「新しいデータで新しいアプリケーションが開発可能になる」とオジー氏

 PinPointの中には、データを販売・配布するDallasという仕組みも設ける。米国航空宇宙局(NASA)が観測した火星のデータなど非常に大規模なデジタルデータを、表やWebサービス(Atom)、プログラミング言語C#から呼び出せるオブジェクトなどの形式として、ネットワーク経由で提供する。

 レイ・オジー氏は「Dallasは今まで入手が難しかった様々なデータを、誰もが入手できるようにする仕組みだ。新しいデータを手に入れることで、ソフトウエア開発者は今までに無いアプリケーションを開発できるようになる」と強調した。

 このほかWindows Azureに関しては、利用できる仮想マシンの種類を4種類に増やし、最大で「1.6GHz動作の仮想プロセサを8個、メモリーを14Gバイト搭載する仮想マシン」などを利用可能にする。またWindows Azureで利用できる開発言語やデータベースとして、従来から発表している.NET Framework対応言語や「SQL Server」のサービス版である「SQL Azure」のほか、プログラミング言語としてJavaやPHP、開発ツールとしてEclipse、データベースとしてMySQLなどを利用可能にすることも明らかにしている。

Windows Server 2008 R2にWindows Azure由来の技術を追加

 Windows Server 2008 R2に関しては、分散アプリケーション基盤「Windows Server AppFabric」の追加を発表し、同日から「ベータ1」を一般公開した。Windows Server AppFabricは、分散アプリケーションサーバー(開発コード名「Dublin」)と、分散メモリーキャッシュ(同「Velocity」)で構成される。VelocityはWindows AzureやSQL Azureのために新規に開発したミドルウエアである。

 顧客企業がWindows Server AppFabricを導入すると、Windows Azure用に作られたアプリケーションを、顧客企業のデータセンターでも簡単に稼働できるようになる。Windows Server AppFabric上に開発したアプリケーションは、Windows Azureでもそのまま利用できるので、顧客のデータセンターとWindows Azureの連携がより容易になる。

 ボブ・マグリア氏は基調講演で、顧客企業内で運用するSQL Serverのデータを、SQL Azureと同期するツールなども明らかにした。2010年以降に、顧客企業のデータセンターとWindows Azure内のアプリケーション実行環境を透過的に管理できるツール「System Center Cloud(開発コード名)」も提供する予定だ。

 PDC09では、11月18日(米国時間)にも基調講演を予定している。Windows&Windows Live担当プレジデントであるスティーブン・シノフスキー氏や、.NETデベロッパープラットフォーム担当のスコット・ガスリー氏らが登壇し、WindowsやInternet Explorer、Silverlight、Visual Studioなどに関する新施策を発表する。