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 「日本の企業は自社の強みにどんどん磨きをかけるべきだ。それが結果的に企業価値の向上につながる」。コマツの坂根正弘会長(写真)は2009年11月5日、NECが開催する「iEXPO2009」の基調講演に登壇し、こう述べた。

 坂根会長が例に挙げた日本企業の強みは、社員がお互いに協力・連携しながら仕事を進める力と、作業のきめ細かさだ。いずれも製品の品質向上につながる。「日本製は高品質というブランドイメージが中国などでは定着している」(坂根会長)。コマツは中国の工場と国内の工場で同じ種類の製品を生産しているが、仕様と品質がまったく同じにもかかわらず、中国では「中国製よりも日本製が1割は高く売れる」(同)。

 坂根会長は「日本企業は、こうしたブランドイメージを企業価値の向上につなげるべきだ」と強調した。坂根会長は企業価値という言葉を「(顧客が)コマツでなければ困る度合い」と言い換えた。性能・機能で他社を圧倒する商品を世に送り出すコマツの「ダントツ戦略」につながる考え方である。製品の力だけでなく、顧客や取引先と「苦楽を共にするスタンスを明確にすることも重要だ」(坂根会長)。取引先が資金繰りに困っていたら現金での取引を増やすなど、助け合いの精神で「誠意を持って対応することが信頼の獲得につながっていく」(同)。

 坂根会長は2001年から2007年までの社長歴任中に経営構造改革を断行、自社の強みを伸ばすのと並行して「見える化」による弱点の解消にも取り組んだ。最たる例が固定費の削減である。改革前、売上高に占める固定費の割合は海外の競合他社よりも6%ほど高く、反対に営業利益率は競合を6%下回っていたという。「見える化によってやるべきことが明らかになった」(坂根会長)。

 坂根会長は、関連会社の削減といった固定費削減を進めた。結果的に固定比率は競合並みに下がり、さらにITを活用した販売・生産管理の強化が奏功して、営業利益率は競合を上回ることができたという。

 一連の経営構造改革について、坂根会長は「考え方は企業だけでなく国の改革にも共通する」と強調した。国や地方などの行政を担う関係者に対して、「日本の発展のために、汗と知恵を出して競争する社会をつくってもらいたい」訴えた。

 坂根会長は「日本は今後、アジア諸国と共に健全な発展をしていくべきだ」とした上で、そのためのポイントとして「日本海側の都市の発展」を挙げた。日本海側の港を拡大し、その近くに工場を整備すれば、海運を効率化できるだけでなく、「内陸部の工場から港に製品をトラック輸送する際に排出するCO2量を減らせる」(坂根会長)。コマツ発祥の地が石川県小松市で、さらに坂根会長が島根県出身であることを差し引いて聞いてもらいたいと前置きをしながらも、「日本海側の都市の発展が日本の発展につながる」と繰り返した。