写真1●日経コミュニケーションの河井保博副編集長
写真1●日経コミュニケーションの河井保博副編集長
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写真2●日経コミュニケーションの松元英樹記者
写真2●日経コミュニケーションの松元英樹記者
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 2009年10月28日から東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2009」展示会場では,会場中央にあるメインシアターで識者や日経BP社の記者が最新トレンドを解説している。そのメインシアターで,日経コミュニケーションの河井保博副編集長と松元英樹記者が「きっかけはコスト削減,進化し始めた企業ネット」と題する講演をした。

 この講演は,「企業ネット実態調査で浮かび上がったユーザーの動向」というサブタイトルが付いているように,日経コミュニケーションが2009年7~8月に実施した「企業ネットワーク実態調査」のポイントを報告したもの。日経コミュニケーションが総務省と共同で毎年実施している恒例の調査で,今年は3786社に調査票を送り1167社から回答を得た。

 これによると,全般的な傾向としてはリーマンショックによる景気後退の影響で,コストに対するユーザーの意識が高まっており,コスト削減への取り組みは増える傾向にあるという。過去1年間に52.2%と過半数がコスト削減対策を実施済みで,今後についてはさらに多い57.7%のユーザーがコスト削減に取り組む予定と答えている。新規投資の目的について尋ねた質問でも,「ランニング・コストの削減」と答えた人が昨年の24.1%から今年は37.0%に急増しており,「新規開発でさえコストの削減を狙ったものが多い。コスト削減を考える人はもっともっと増えていく」(河井副編集長)と分析する。

 コスト削減のためにユーザーが実施しているものとして「テレビ会議」「シンクライアント」「サーバー仮想化/サーバー統合」「クラウド・コンピューティング」「WANのコストダウン」を挙げた。例えば,テレビ会議は着実に浸透しており,使っていると答えた企業が昨年の43.4%から今年は47.7%に増えたという。講演では,実際にテレビ会議を導入した企業としてデンソーやジーエルサイエンスの2社を松元記者が紹介し,「出張費ですぐに初期投資が回収できる」と取材した内容を会場の聴講者に語った。

低コスト指向に合ったバースト対応WANに注目

 コスト削減の波は,企業が使っているWANにも影響を与えている。

 停滞気味だったWAN市場が伸びる方向に転換してきたものの,これもコスト削減を意識してのものだという。WANの選択理由として「通信コスト」「信頼性・品質」「高速性」が3大要素なのは変わらないが,信頼性・通信品質が54.3%から49.0%に低下しているのに対し,「通信コストが抑えられる」が57.0%から62.8%に5ポイント以上伸びている。つまり,「信頼性よりもコスト削減を重視する傾向にある」(河井副編集長)。この具体的な結果として,拠点間接続にインターネットVPNを使う例が増えているとする。しかも,「支線だけでなく,従来は帯域制御などを求めていた幹線系でもインターネットVPNを使うユーザーが増えてきた」(河井副編集長)のが特徴だ。

 こうしたユーザーの指向に合う新サービスとして「バースト対応サービス」に注目を集めていることも指摘した。これは,KDDIやNTTコミュニケーションズが提供を始めているサービスで,一時的に大量のトラフィックが発生した際に物理的な最大通信速度まで通信可能というサービスである。実際に使える帯域は回線の空き状況次第ながら,恒常的に大量のトラフィックが発生するわけではないユーザーにとっては,低コストで大量通信にも対応できるサービスとして注目されている。

 KDDIとNTTコミュニケーションズのサービスのいずれも,調査を実施した7月にサービス提供が開始されたばかりで全くの新顔だったにもかかわらず,すでに約24%のユーザーが「ぜひ使いたい」または「使ってみたい」と回答したという。まだよく知られていない状況での調査のため,すでに知っていると答えた人の中だけでは実に7割以上の人が,「ぜひ使いたい」または「使ってみたい」と回答したことになる。

クラウドやFMCでコストの削減を目指す

 コスト削減に対するユーザーの意識の高まりが,「クラウド・コンピューティング」への関心を高めているという。具体的には,管理負荷を軽減し,それに伴う管理コストの削減を期待して,クラウド・コンピューティングを「既に使っている」(6.3%)あるいは「使いたい」(34.2%)と答えたユーザーは4割以上になった。管理コストだけでなく,「サーバーの集約などによるソフトウエア・ライセンスの観点からも見直しが進んでいる」(河井副編集長)とする。

 また,携帯電話の活用法としてFMC(Fixed Mobile Convergence)への関心を高めているという。FMCとは,携帯電話を会社内では内線電話としても使うというソリューションである。携帯の定額料金に数百円をプラスするだけで電話料金が済むというコスト面でのメリットを評価して人気を集めているという。