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 東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2009」会場で,「日経コミュニケーション」の滝沢泰盛記者(写真)が「国内通信事業者のクラウド戦略」をテーマに講演した。

 滝沢記者は,国内通信事業者がクラウド事業に注力する背景として,ネットワークの中抜きが進んでいることを挙げた。「競争によって安い常時接続サービスが急速に普及したことなどから,通信事業者は付加価値を提供することが難しくなった。GoogleやAmazonのように,大規模データセンターを構築してサービスを提供したり,あるいはユーザーが使う端末を提供したりする企業しか儲からない構造になっている」と指摘した。

 どの通信事業者も,品質への要求水準がより高いクラウド市場を開拓しようとしているという。既存資産を有効活用できる分野だからだ。通信事業者が品質や機能をコントロールできる“キャリア・グレード”のネットワークを使って,企業向けのサービスを提供する「プライベート・クラウド」や,さらに品質への要求が厳しい「ガバメント・クラウド」などである。複数のクラウドをまたいで一つのサービスを提供できるようにする「インタークラウド」も必要になってくる。

 続いて滝沢記者は,国内通信事業各社のクラウド事業戦略を解説した。NTTグループは,クラウド事業戦略を支える両輪として,NTT自身が提供するNGN(次世代ネットワーク)サービスと,グループ企業が提供する企業向けNGNアプリケーションを強化中である。NGNの帯域保証サービスを生かした音声や映像などのリアルタイム通信や,回線認証機能を利用した行政サービスなどを有望視している。

 KDDIは2007年にBusiness PortというPaaS(Platform as a Service)型のサービスを開始し,SaaSを提供するパートナー事業者を募集している。また2009年6月には「KDDIクラウドサーバサービス」を開始した。これはAmazon EC2のように,仮想サーバー機能を提供する典型的なクラウド・サービスであり,必ずしも通信事業者の既存資産を生かした事業とは言えない。

 ソフトバンク・グループは,2005年に「KeyPlat」というPaaS型のサービスを開始している。しかし開発当時,標準的な技術がなかったことから,KeyPlat上でSaaSを提供する事業者がなかなか集まらなかったという。そこで現在はHaaS(Hardware as a Service)型のサービスを新たに提供する準備を進めている。KeyPlatの経験から,アライアンスを重視する方針であり,大企業のシステム子会社などと連携して,実際の要件に合わせてアプリを開発し,自社のHaaS型サービスと組み合わせて提案する考えだ。

 GoogleやAmazonなどに代表されるパブリック・クラウドと,キャリア各社が目指す企業向けのプライベート・クラウドでは,ユーザー数の規模が大きく異なる。「国内のブロードバンド回線ユーザーは3000万と言われるのに対し,NGNのユーザーは東日本で50万,西日本で20万とわずかだ。50万のユーザーのために,NGNに特化したサービスをわざわざ開発する事業者が出てくるのか,という問題がある」と滝沢記者は指摘する。

 そのため,当初はNGNに限定せず,一般のインターネットを利用してもよい,という方針にしてハードルを下げ,パートナー事業者を勧誘するといったアプローチも考えられるという。その際に武器になるのは,通信事業者が持つブランド力や組織力だという。「例えば,Wiiをインターネットにつないでサービス端末にしよう,という場合,NTTの組織や販売力,サポート網などが強力な武器になる。各社とも,まずは既存のブランド力や組織力,商圏を生かして,パートナー獲得を進めていくだろう」と,滝沢記者は講演を締めくくった。