写真●日経SYSTEMSの干場一彦編集委員
写真●日経SYSTEMSの干場一彦編集委員
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 「仮想化技術は,ニーズに応じたシステム構成を短時間でとれるのが最大の利点であり,今後も適用範囲を拡大していく。半面,普及に伴い運用管理とバックアップが課題となってくる」――。2009年10月28日から東京ビッグサイトで開催しているITpro EXPO 2009展示会において,日経SYSTEMSの干場一彦編集委員が「普及が進む仮想化技術とその活用法」と題する講演を行った。講演の骨子を紹介する。

 仮想化の対象は,サーバーに限らず,ネットワークやストレージ,デスクトップなどにも適用範囲が広がっている。例えば,ネットワークの仮想化では,部署ごとに別々のポリシーの論理ネットワークを構成できる。また,ストレージの仮想化では,複数の物理ドライブをまとめて巨大な論理ドライブを構築できる。デスクトップの仮想化では,パソコン・ソフトの大部分をサーバー側で動かし,必要なものだけをパソコン側に置くことで全社的な運用管理が容易になる。

 このうち,サーバーの仮想化は今後も普及していく。「所有から利用へ」というユーザーの意識変化と,システム・リソースの柔軟性確保の必要性から,クラウド・コンピューティングの基盤技術として活用される。最も大きいのは,サーバーの統合・集約によるコスト削減だ。運用保守コスト,消費電力,設置スペースのどの点でも仮想化の効果は大きい。

 サーバー仮想化の用途は広い。まず,システムの集約。1台の物理マシンで複数の仮想マシンを同時に稼働できる。第2に,システムのリスク分散。いずれかの仮想マシンでシステム・クラッシュが起こっても,同一コンピュータ上の他の仮想マシンは隔離されており,その影響を受けない。第3に,同一構成のマシンを短期間で用意すること。システム全体を少数のファイルにまとめることができる。第4に,システム移行が容易になる。仮想マシンは,どの物理マシンでも変更なしに実行できるからだ。

 サーバー仮想化は統合・集約によるコスト削減を推進する。5年前を思い起こすと,エントリ・クラスは1台1プロセッサ(SMTすなわち同時マルチスレッディングありの場合,2論理プロセッサ),ミドルレンジは1台2プロセッサ以上(SMTありで4論理プロセッサ)であった。仮想化技術は利用されておらず,1台1システムのラックマウント型サーバーが典型的だった。

 これに対し今後は,エントリ・クラスは1台8論理プロセッサ(4コア×2[SMT])以上,ミドルレンジは1台16論理プロセッサ(4コア×2ソケット×2[SMT])以上。仮想化技術の利用で,1論理プロセッサ当たり1システムのブレード型サーバーが主流になる。マルチコア化の進展により,少なく見積もっても5年前の8倍あるいは16倍のシステムがブレードに集約可能になる。これは,ユーザー企業にとってメリットが大きい。

 ただし,仮想化の進展により,運用管理面の対応が重要になってくる。まず,物理環境に加えて仮想環境も把握しなければならない。物理環境の異常が,仮想環境のどこに影響するかということも知っておく必要がある。したがって,物理環境をシンプルにしておかないと,仮想環境の柔軟性が生かせないことも起こり得る。

 仮想環境のバックアップ体制も重要だ。例えば物理環境の場合と同様に,仮想サーバー内のファイル単位でバックアップする方法がある。仮想サーバーにバックアップ・ソフトのエージェントを導入する。差分・増分バックアップが容易という利点がある。

 一方,仮想サーバーを丸ごとバックアップする方法がある。これは仮想環境ならではの方法だ。仮想化ソフトの管理OSにバックアップ・ソフトのエージェントを導入する。ディザスタ・リカバリにも向く。ただし,バックアップ容量が大きくなる。差分・増分バックアップもソフト的には困難で,ストレージの機能を使って対応する必要が出てくる。

 第3に,上記の両方を実現する方法がある。これには仮想化ソフトのバックアップ機能,例えばVMware Consolidated Backupなどを利用する。仮想サーバー全体および仮想サーバー内のファイル単位でバックアップが取れる。仮想サーバーを稼働中に丸ごとバックアップしたり,SANストレージを利用することも可能である。

 こうした運用管理やバックアップを支援する製品は,まだ過渡期にあるといえる。今後の発展や充実が期待される。