写真1●登壇した野村総合研究所の谷川常務執行役員
写真1●登壇した野村総合研究所の谷川常務執行役員
[画像のクリックで拡大表示]

 「日本は既に財政難や人口減少,少子高齢化によって社会インフラが維持できなくなっている。この状況を打破するためには,三つの『C』が鍵になる」――。10月28~30日に東京ビッグサイトで開催している「ITpro EXPO 2009」展示会の特別講演に登壇した野村総合研究所(NRI)の谷川史郎常務執行役員(写真1)はこのように話す。

 谷川氏は「国の借金は国内総生産(GDP)の1.7倍に達し,先進国の中でも一番高い数字だ。財政再建のために,公共投資は95年をピークに減少している。このままでは2030年には維持するだけで手いっぱいの状態になる可能性がある」と警鐘を鳴らす。さらに,ミネアポリスの橋の崩落やニューオリンズの堤防決壊などを例に挙げて「日本でも既にこのようなインフラ崩壊は起こり始めている」と現状を語った。また,インフラの崩壊は物理的な公共物の崩壊だけではない。公安や鉄道などの公共サービスにまで及んでいるという。

 このインフラ崩壊を止めるにはどうすればよいのか?谷川氏は三つのキーワードを提示した。それが,3C(Compact,Collaboration,Convenient)だ。

 一つ目のキーワードであるCompactとは,コンパクトな都市構造を示す。谷川氏は「現在の都市開発は,低密度で拡散した都市群になっている。インフラの運営も大規模にならざるを得ない。都市構造をコンパクトにして都市間を強固なインフラで結ぶ。都市機能はすべて歩いて行けることが理想的」と話す。このような試みは,ヨーロッパで始まっており,国内でも青森県や富山県でも取り入れられているという。

 二つ目のキーワードであるCollaborationは,活力のある地方都市を示す。地方都市が直接海外と連携してビジネスを行ったり,地方でも首都圏と同等の情報インフラやコミュニケーション・インフラを整備したり,といったことが考えられる。この地方でしっかりとした産業が育つためには「ネットをベースにした,クラウド・コンピューティングも有用だ」(同氏)と話す。

 谷川氏は,最後のキーワードにConvenientを挙げた。これからの高密度都市でのサービスは「かゆい所に手が届く,ではなく,かゆい時に手が届く」(同氏)ものになると言う。高密度空間における新サービスの事例として,米ZIP CARのカーシェアリング・サービスやビール一本から配達を可能にするカクヤス社のサービス,何でも1時間以内に配達するVISIte社のサービスなどを挙げた。

 最後に,同氏は「インフラ崩壊の回避には,効率化を重視したインフラの再構築が必要。そのためには,都市のコンパクト化,運営主体の多様化,地方のコラボレーションがキーワード。また,都市のコンパクト化によって出現する新サービス群も,日本が得意とする3Cを追求することで,次世代産業の育成が可能になるだろう」と締めくくった。